ミラーボールな夜｜リアクション

ミラーボールな夜

【いただきます！】

　七瀬もたま～に、料理をします。まだまだおぼつかない腕前ではありますけれど、いつもの読書のおかげもあって、知識量はなかなかのものです。今日はその知識にばっちり技術も身に着けるべく、夕食の用意をかってでました。
　なぜ料理をするのがたま～になのかといえば、大抵はレシピ本ばかりをがっつり読みふけってしまい、肝心のお料理をする時間がなくなってしまい、おざなりになりがちだからです。集中力があるのは良いことながら、のめり込むのも考えモノですね。
　とはいえ、カレーくらいは作ったことがありました。
「あらお兄さん、手際がいいわねぇ。助かるわぁ」
「いえいえ。このくらいは」
　栄養士のおばさんにも褒められてしまいました。
　玉ねぎをくし切りに。じゃがいもは６等分程度にさくさくさく、水にさらしておいて。にんじんは乱切りに切り分けておきます。
「本の知識もなかなか、役に立つとですね」
「お野菜切れたのね、ありがとう。じゃあそっちの具材と合わせて、炒めてくれる？」
「あ、はい」
　お鍋に油を熱し、野菜にお肉を投入すると、香ばしい匂いが立ち上ります。
　栄養士さん、その肩口からひょいと覗き込んで、
「ここで隠し味の投入！　オイスターソースを入れま～す」
「おおっ。これでうま味がアップするんですね」
　お鍋を振る手さばきもなかなか板についてきて、知識もまたひとつ増えて、上達を実感する七瀬です。

　色違いのお揃いエプロンを着て、修とあおいもカレーの用意を手伝います。
　今回はサンマさんカレー！　ということで、サンマの蒲焼きをレッツクッキン。
「えーっと、まずはサンマを三枚おろしに……修君、三枚おろしってどうやるの？」
「右身、左身、中骨に分けるんだ。はじめに頭と内臓を取ってから、中骨にそって包丁を入れて……」
　修がサンマを一尾、三枚おろしの見事なお手本を披露すると、あおいの瞳は羨望に輝きます。
「すごーい！　さっすが、上手だねえ」
「あおいもすぐにできるようになるさ。ほら、やってみて」
「うん！」
　サンマを次々、おろしていきます。参加者が多いもので、サンマの数もいったい何尾あるのやら。
　三枚におろしたら、小骨を抜き、一尾を三等分にカット。小麦粉をまぶして、熱したお鍋で焼いていきます。
「両面が焼けたら、さっき用意しておいた調味料を」
「入れるんだね、まーかせて！」
　素直なあおいは、料理にノッてくると見るからにうきうき、弾んで見えるもので、修まで楽しくなってきてしまいます。
「わあお、いい匂い～！」
「今頃のサンマは少しサイズが小振りだけど、加工に向いてるんだ。蒲焼きは最高だよな」
「そうなんだ。これは食べるのが楽しみ♪」
　程なく、カレーのほうも完成したようで、いよいよお食事タイムとなりました。

　食堂にずら～り。みんなで手を合わせて、
「「「いただきま～～～す！！」」」
　稲積柚春の目の前にも、ほかほかサンマさんカレー。スパイスの刺激的な香りにサンマ蒲焼きの香ばしさが乗っかって、なんとも食欲をそそります。野菜もお肉もごろごろ入っていて、お腹も心も満たされそう。
　福神漬けといっしょにスプーンですくって、はむっ。
「んん、美味しい！　学食のカレーもなかなかだね」
「おっ、食べてるかい～？」
「あ、ワッ……じゃなくて、ウォルター先生！」
　椅子を引いて正面に座ったのは、ウォルターです。今日はいつ会えるかな？　とやきもきしていたもので、柚春のお顔は花のようにぱあっと明るくなりました。
「カフェテリアのカレー、なかなかいいんだよねぇ。メアリの作る本格欧風カレーも美味いんだけど、ときどきこの味が妙に恋しくなるよ」
「分からないでもないけど……それ、メアリさんには言っちゃダメですよ？」
「ははは。分かってるよぉ」
　美味しいカレーの味を彼を共有しつつ、柚春は尋ねます。
「ねえウォルター先生。この後はいっしょにいられる？」
「今日は先生方と見回りに忙しくてねぇ。ずっとはいられないけど。時間は作れるよ」
「ほんと？　良かった！　実は、食後のデザートを用意してきたんだ～。星を見ながら食べようね」
　それは楽しみだねぇ、と笑いながらカレーをほおばるウォルター。好きな人の食べてる姿って、なんて素敵でしょう。柚春もにっこり、ほくほくでありました。

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