またコン、ＤＯ！｜リアクション

またコン、ＤＯ！

◆腹ペコ猫の胃袋にて

　店内の大部分を占めるいくつもの巨大ないけすを見て、古館苺花はこっそりと笑みを浮かべた。ここならば長く滞在するのにうってつけだと思ってのことだ。
　彼女が上穗木千鶴とともに入った店・ハングリーキャットは、本日、またコン参加者で溢れかえっていた。
　自分たちが選んだ魚を目の前で調理してくれるというシステムは、初対面の若者たちの話題作りとしても、ほどよく調理に時間がかかり居座りやすいという意味でも合コンに適しているからだろうか。
「何のお魚出てくるのだ？　とっても楽しみなのだ～」
「おいしい、楽しみ、さかな！　さかな！」
　調理しているところが最もよく見える席に腰掛けているのは後木真央とシダ美穂戸。
　彼女らの目的はどうやら違うようだったが、すくなくとも苺花はそう思って千鶴をこの店に連れ込んだ。
「えー！　千鶴、寝子高生だったのー!?」
　席についてさっそくさきほどの質問に千鶴が答えてくれる。その答えに苺花は驚かずにはいられなかったが。
　そういえば高校生以上しかまたコンに参加できないんだっけ？
　苺花はチラシの文面を思い出しながら、改めて千鶴の姿をまじまじと見てようやく納得した。
　つるりとした千鶴の肌をより眩しく見せる真っ白なサマーニットのワンピースは、千鶴の小さな体躯にはすこし大きいらしく、肩が半分見えている。
　これだけ見れば高校生であることを疑ったままだったが、しかしその下の巨大な胸は小学生や中学生では持ち得ない、圧倒的な質量を誇っていた。
「なるほどねー！　でもこんなに可愛い子に、いままで気がつかなかったなんて、苺花ってば、おばかさん☆」
　ところが千鶴は苺花のこの態度気に入らないらしく、むっとして苺花を上目遣いでジトと見る。
「きみはさっきからたびたび子ども扱いするけれど、ぼくはれっきとした十五歳だよ！」
　もうすぐ十六になるんだ、そしたら結婚もできるようになるんだ！
　ムキになって頬をほんのりの赤くしているのが、これまた可愛らしい。苺花は思わず身悶えした。
「あぁん！　苺花も可愛いけど、ちーちゃんも相当可愛いわ～！」
「……メイドの薦めるままに着たのだけど、似合っているようでよかったよ」
　いつの間にやら、千鶴はちーちゃんと呼ばれているなど色々と気になるところはあったが、褒められたことは千鶴も満更でもないらしい。
　それもまた可愛い！　と苺花が口を開こうとしたとき「お造り盛り合わせと、網焼きアワビになります」どうやらいつの間にか捌き終わったらしく、料理が運ばれてきた。
「やん、とっても美味しそう♪　苺花にふさわしい感じよね！！」
「そうだね、」
　目をキラキラさせている苺花に比べると反応は薄く感じるが、前髪から覗き見える目を見ると、千鶴も随分と楽しんでいる。
　店に入る際に、千鶴が甲殻類アレルギーだということを聞いていたので、当然そういったものは避けてもらってあるので心配もない。
　ふたりは刺身のとろけるような甘味に舌鼓を打ち、「はい、あーん☆」としたり「好きな男の子がそっけないんだ」というような感じでふたりは盛り上がっていった。

　その後、参加者たちに振舞われたのは自慢の網焼き魚や、天ぷら。
　どれもこれも新鮮・出来立てであることを徹底している甲斐あって、苺花の予想通りハジメマシテの会話を円滑なものにしているようだ。
　例外はあったが――
「シダちゃんが着てるのってアオザイ？　かわいいねぇ」
「ンゴーン！」
　どんな言葉もベトナムの言葉でおいしいを意味する言葉『ンゴーン』で躱していく（あるいは気がついていない？）シダ。
　彼女は例外なので、仕方がない。
「ごちそうさま！　ンゴーン！」
　シダがハングリーキャットを後にすると、もうひとりの例外・真央も彼女の背中を追うように店を去っていった。
　彼女らは猫民でも一緒になり、同じように食べることに心血を注いだ。
　そして「お前、強いか？」というシダの挑発的な言葉が、フードファイトのゴングとなる。