またコン、ＤＯ！｜リアクション

またコン、ＤＯ！

◆ねこのての上で踊る

　本田宗次と哀坂子夜は昼食をとるためにキャットロードに来ていた。
　しかしどこもかしこも満員御礼。このままでは食いっぱぐれるなと宗次が頭を抱えたとき、ねこのての看板が目に入った。
（メイド喫茶か……）
　ちらっと隣の子夜を見るが、相変わらず無表情のまま。
「ここでもいいか？」
　渋々尋ねてみると「……問題ない」と返事が来た。
（昼食だけ済ませたら、）
　そんなことを思いながらふたりは店に足を踏み入れた。
「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」
「あ、ああ」
　なんだかそれじゃあ親父と娘みたいじゃないかと宗次は思ったが、あえて口に出すことでもない。
　特に反論せずに席に着く。
　適当に注文を終えると宗次はじっと子夜を見つめていた。
（いいとこのお嬢さんなんだろうけどなぁ……）
　改めて子夜の姿を見て本田は考える。
（どう見たって、上等な着物じゃねぇか）
　子夜はなにも語らない。つまらなさそうにしているかといえばそれもまた違う。
　この異様な空気を持ったこの子はなにも主張していないが、結局は彼女に振り回されているような気がして、宗次は静かにため息をついた。
「どうか……したか……？」
　興味がなさそうなのに興味を持っているような風に話す子夜。
（これ以上は面倒だな……）
　けれど放っては置けない危うさがあるとも思った。

　おかえりなさいませと迎え入れられて、すこし眩しいけれど優雅で品のいい空間に溶け込むのは悪い気はしない。
　常闇虚が頼んだのは一般的にもよく飲まれているアッサム。
　澄んだ真っ赤な液体を見つめているとなんともいえない昂揚感を得るのだった。
「……紅茶、とっても美味しいわ」
　店員に声をかけると優雅に頭を垂れて、「ありがとうございます、お嬢様」という。
　見るからに柔らかそうな髪の毛と左目のそばにある泣きぼくろがなんともそそるではないか。
　虚は紅茶をひとくち飲んで、声をかけてみた。　
「せっかくだから……お名前を聞かせてもらえるかしら？」
「……『ばんり』でございます、お嬢様」
　お店での名前を名乗った彼女に、虚はすこしだけがっかりする。
（まぁ、これだけ素敵な時間を提供してくれるのだから贅沢を言ったらダメね）
　虚には穏やかな表情で接客をしているが、万里が虚のことを警戒しているのがよくわかったから。
　そのことを残念に思いながらも（得体の知れない『なにか』が嫌なのね……）と万里の気持ちが手に取るように感じ取れたことはなかなか愉快。
「ばんりちゃん、紅茶のおかわりを頂けるかしら？」
「はい、ただいまお持ちしますね。お嬢様」
　虚はほどほどのところで万里を開放し、ぐるりと店内を見渡すことにした。
（あら、あの子は……）
　はじめは空間にぽっかりと穴があいているように錯覚した。
　それほどまでに空虚で、けれど無になりきれない存在感を放った人間がそこにはいたのだ。
（噂で聞いた子、よね。きっと）
　虚は思いがけない出会いに喜んだが、よくよく観察して、その隣にいる疲れた様子の男のせいで興ざめする。
　既に誰かと話していることも残念に思う原因だったが、それ以上に、その男はどちらかというと虚側の人間であり、そんな男に気になっていた子に先に手を出されたのが悔しいのだ。
　睨みつけるように、舐めるようにふたりを見つめていると、振り向いたのは男の方だった。
「っち」
　小さく舌打ちをして、男は子夜になにかを告げる。
　子夜がこくりと頷いて、男は席を立った。
（あら、ついてるわね）
　虚が喜ぶのも束の間、男はずんずんと虚に歩み寄ってきて「ちょっといいか？」と話しかけてきた。
（私が興味があるのはあなたじゃないわ）
　そういう思いを込めて見つめると、
「先に見てきたのはそっちだぜ」と言って、睨みをきかせてきた。
　そんなものに虚が恐怖を抱くことはないが、従っておこう。
　虚は「場所を変えましょうか」と提案して、名残惜しく思いながらも店を出ることにした。