ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

「堀さん、これは？」
　ダンススタンスレボリューションの筺体を離れ、様々なゲームがひしめき合う店内を品定めして回っていた月が興味を持ったのは２人で協力プレイ出来るガンシューティングだった。
「おっ、ダイヴクライシスか。良いね、やってみようぜ。折角だから協力プレイが良いかな」
　ダイヴクライシスはこれまでに多数シリーズを重ねている名作ガンシューティングである。基本的に２人組のダイバーが改造海洋生物による世界征服を目論む悪の組織を壊滅させるために戦うというストーリーなのだが、荒唐無稽なストーリーの割に完成度が高く、家庭用に移植されたシリーズもある。
　和哉は１００円玉２枚を投入し、ホルダーから銃型コントローラーを２丁引き抜くと、片方を月に渡して言った。
「ほら、背中は任せたぜ」
　なんてな、と照れくさそうに和哉は頬を掻く。
「この銃、軽いですね……分かりました、任せてください」
　そう言って差し出された銃を受け取った月は、至って真面目な表情だ。
　プロローグのムービーが終わり、『Action!』の掛け声とともにゲームが開始する。
「俺は画面の左半分、常闇は右半分の敵を優先的に片付けよう！　頭を狙えば少ない弾数で倒せる。時間が経つほど被弾率が上がるから、速さがクリアの鍵だぞ」
「了解です」
　和哉のアドバイスを素直に飲み込み、月は次々と敵を倒してゆく。彼女が撃つ弾はまるで吸い込まれるように相手の急所へと命中する。
　和哉は初めてプレイする月がなるべく楽しめるよう、指示を出すなどして彼女のサポートに徹していた。
　やがて広大な海洋プラントで、上半身がサメ下半身が巨大なタコという怪物を相手に闘っていた画面の中のダイバーたちは、おもむろに何故か床に落ちていたロケットランチャーを担ぎ、最後の引鉄を引いた。
　和哉と月が撃ったふたつの弾頭でばらばらの肉片と化した怪物は、どういうわけか一緒に爆発した海洋プラントと共に海に沈んだ。
「ふう、まさか一度でクリアできるとは思わなかったな……。さすが常闇頼りになるぜ」
「いえ、堀さんの指示が良かったんですよ」
「いくら指示が良くっても反応が悪かったら意味ないだろ？　常闇がちゃんと従ってくれたおかげだよ。ありがとな」
「……どういたしまして」
　無邪気に褒める和哉の言葉に、月は僅かに目を伏せて答えた。