ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

「そうだな、まずはこれなんかどうだ？」
　そう言って和哉が指差したのはダンススタンスレボリューション。いわゆる音ゲーと呼ばれる種類のもので、画面の中を流れてくる音符に合わせて足元の対応するパネルを踏むことで点数を獲得できる。
「常闇は結構身軽そうだし、少し練習すれば良い線行くんじゃないか」
「そう、ですか……。あの、できれば先に堀さんにお手本を見せてもらえると嬉しいのですが」
「えっ、俺か？　うーん、実はあんまり得意じゃないんだが……いっちょやってみっか」
　和哉はおそるおそる筺体に１００円玉を投入する。
　楽曲選択などややあって曲が流れ始めた。
「よっ、ほっ、っとと……うわわ」
　和哉のプレイは下手というほどではないが、それでも完璧とは言えない出来だった。しかし彼自身、実力はよく分かっているようで無理に高難易度の曲を選ばず無難な曲を選んだので、一応途中失格だけは免れたようだ。
「ふう、あんまり格好良くは踊れなかったけど、大体こんな感じだよ。ほら次は常闇の番だぞ」
　この店の設定ではどうやら１クレジットで２曲まで遊べるらしい。和哉は月をパネルの上へと引っ張り上げた。やがて和哉が選んだ曲が流れ始める。
「あっ堀さん、そんな急に……、あっ」
　心の準備もしないままに曲が始まってしまい、月は狼狽するものの、ステップだけはなんとか踏んでいる。はじめこそ初心者らしいたどたどしい足取りだったが、次第にコツを掴んできたようで曲も終盤に差し掛かる頃には殆ど踏み漏らしが無いまでになっていた。
「ふう……」
「お疲れさん」
　１曲終えた月は乱れた息を整えるように深呼吸していたが、和哉の方へ向き直ると頬を膨らませて拗ねたような口ぶりで言う。
「もう、酷いですよ堀さん。私にも心の準備というものがあるんですから」
「いやぁゴメンゴメン。でも楽しかったろ？」
「それは、まぁ……楽しかったですけど」
「良し。じゃあ今度は２人で一緒にやろうぜ。曲は常闇に任せるからさ」
　そう言う和哉にこくりと頷き、月は再びパネルに足を乗せた。