ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

　２人が外へ出ると既に時刻は午後４時を回っていた。夏を目前にしているとはいえ、そろそろ日が暮れ始める時間帯である。
　透と神無は駅への帰り道を歩いていた。
「お土産は何を買ったんですか？」
「ペンギンの形のクッキーと、エイのストラップっすね。姉夫婦のとこに居候させてもらってるもんで、お礼ってことで」
　神無はマリンパラダイスのロゴが入ったビニール袋の中を覗いて言った。
「おや、神無さん自身の分は買わなかったんですね、やはり」
「え？　……あ、そういえば。まぁ構わないっすよ俺の分なんて」
「お姉さん想いなのは素晴らしいですが、私としてはもっと神無さん自身にも興味を持ってもらいたい所ですね……」
「気を付けます……」
「ですから、はい。これを」
「へっ」
　すると透は自分の袋の中からシャチのぬいぐるみを取り出して神無に渡した。
　枕くらいの大きさがある。
「それは私から神無さんへのお土産です。今日付き合ってもらったお礼ですから、ぜひ受け取って頂けると嬉しいのですが」
　完全に不意を突かれた神無は驚いた顔をしたままシャチのぬいぐるみを受け取った。
「…………ありがとう、ございます」
　ぎぎぎ、と油の切れた歯車のような音が聞こえてきそうなほどぎこちない笑みを浮かべて神無は礼を言う。
「どういたしまして」
　それを見た透も万年雪のような無表情を崩して、ほんのわずかに唇を持ち上げて微笑むのだった。