ひねもすのたり、雲の切れ間に｜リアクション

ひねもすのたり、雲の切れ間に

　悩んだ末にさゆるがやってきたのはシーサイドタウンの水族館、寝子島マリンパラダイスだった。さすがに寝子島でデートスポットと言えば必ず挙がるだけのことはある。休日ということもあってか、なかなかの混み具合だった。
「ふぅん、結構いろんなものがいるのね……」
　さゆるは受付でもらったパンフレットにざっと目を通す。くらげ、ペンギンにエイ等々およそ一般的な水族館で見られるようなものは網羅されている。
「とりあえず順に回っていけば良いかな。特に何を見たくて来たというわけでもないことだし」
　照明と言えばほとんどが立ち並ぶ水槽のライトばかりの薄暗い館内を、人の流れのままにさゆるは歩みを進めてゆく。ゆったりと泳ぎまわる魚たちや、一見生物とは思えないような独特の姿をした生き物をぼんやりと眺めて回る。
　ふと、そのうちのひとつ、熱帯の魚が展示されている一角でさゆるは足を止めた。
　カクレクマノミやエンゼルフィッシュなど比較的馴染みのある魚に混じり、妙な魚がいた。青っぽい体表に額が大きく隆起した、大きめの魚だった。よく見ればくちばしのような口をしている。
「なんか間抜けな顔してるわね。えっと……ブダイ、で良いのよね」
　さゆるは水槽の手前に展示されている説明書きに書かれた名前を読み上げた。およそ『熱帯魚』と聞いて一般に思い浮かべるようなものとはかけ離れた姿をしたブダイは、感情のこもらない目をさゆるが立つ方へと向けていた。
（こうしてガラス越しに見ていると、まるで私がこの魚達に鑑賞されているみたいね。水族館だなんて言ってこっちが鑑賞しているような気になっているけど、向こうにしてみればちょっとした遠足気分なのかも）
「まあ、私なら遠足に行った先が刑務所でしかも終身刑というのは、少し、いやかなり嫌だけど」
　さゆるがそう呟くと、ブダイはつい、と水槽の奥の方へ泳いでゆき、やがて霞んで見えなくなった。

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