狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　黒猫となった八神修は聴力を活かして騒々しい海岸へ急ぐ。隣には青い瞳のトラ猫の七夜あおいがいた。やや視線を下げて何やら落ち込んでいるようだった。
　気付いた修が透かさず声を掛ける。
「気にしなくていいよ」
「でも、みんなにあんな酷いことをしたし」
「あおいの手料理ならどんなものでも食べたいにゃん」
「こんな時に修君ったら」
　あおいは猫ながらも表情を緩ませた。目にした修は、ふふ、と笑う。
「でも、ありがとう。なんか勇気が出てきたよ」
「俺もあおいがいれば、なんでもできそうだ」
　二匹の猫は寄り添いながらも駆け足で目的地に着いた。
　青黒いトンビが砂浜にいる猫に襲い掛かる。上空には味方もいて伊藤美緒が鷹となって相手の連携を崩した。
「急ごう！」
　修の一言であおいは、うん、と頷いた。
　敵の只中にいた万条幸次に複数のトンビが攻撃を集中させた。
　修は手近の流木に意識を集中。ろっこんの『分解』を発動させて鋭い木片を作り出すと、一羽に向けて飛ばす。木片が目に刺さり、苦痛で砂浜に墜落した。
「逃がさないわ」
　待ち構えていたかのように椎井莉鳥のろっこんが発動。電気が標的を捉え、青黒い色は黒一色となった。
　その中、幸次が別のトンビに掴まれた。宙に持ち上げられた瞬間、目を閉じて念じた。
　『猫チェンジ』のろっこんが発動して、人と猫の中間の変身を果たす。逆にトンビの脚を掴んで砂浜に勢いよく叩き付けた。苦鳴の声を上げると青黒い靄となった。
「半分は猫だから平気だよぉ」
「頼もしい仲間だ」
　安堵の表情を浮かべると修は青黒い蝶に注目した。
「これも危険だ」
　木片を飛ばして易々と斃す。逃げようとした別の蝶はあおいが飛び掛かって引き裂いた。実体を保てなくなったのか。青黒い靄となって一方へ向かう。
「どういうことだ？」
「修君、気になることでも」
「斃されると、決まった方向に飛んで、そうか。追い掛けよう」
　修はあおいを連れて青黒い靄の追跡を始めた。走りながら心の内で考えを巡らせる。
　――斃したあとの姿は弱々しい。一つだけなら適当に逃げたと思える。だが、複数が同じ方向を目指せば、それは偶然ではなくて、先に何かあると見ていいだろう。
　思考を中断した。修は隣のあおいを見やり、俺が守る、と改めて心に誓った。