狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

「また巻き込まれたのね」
　灰色の猫となった椎井莉鳥は砂浜に佇む。目の前の戦いを見ている間に目付きが鋭くなった。
「排除しないと」
一方を敵と決めつけて歩き出す。その行く手を遮るように黒猫が現れた。
「僕だよ」
「誰よ」
　黒崎俊介の口癖とはわかっていても構う時間が惜しい。相手は寝子島高校の現役の教頭でもある為、無視して通り過ぎることは憚られた。
「微笑みを絶やさない紳士だよ。もう、わかるだろ？」
「はいはい、そこをどいて」
「僕だよ。この僕だよ。名前を言って。ねえ、お願いだ。僕なんだよ？」
　涙声になって横を付いてくる。最後とばかりに、僕なんだ、と項垂れて言った。
　莉鳥は溜息のあと、億劫そうに口を開いた。
「黒崎教頭、先を急いでいるので」
「そう、それが僕だよ！」
　歓喜に満ちた声を上げた。なるべく見ないようにして莉鳥は足を速める。
　斜め前方に小さな白猫がいた。じっとこちらを見てくる。
「なに見てんのよ」
「別に」
「あたしは大人の女性なのよ」
「相原先生まで。疲れるわね」
　白猫となった相原まゆは怒りで震える。
「子ども扱いなんて許さないんだからー！」
　白猫は莉鳥に飛び掛かり、猫パンチを見舞う。見事に空振りして頭から落ちた。意識が朦朧としても、子供じゃないんだから、と言い続けた。
「この不満はあいつらに」
　トンビは上空を飛んでいる。真下には三条神無がいた。
「危ないわ」
　莉鳥の声が聞こえていないのか。突っ立った状態のままだった。トンビが嘴を下にして突っ込んでくる。神無は再び、ろっこんを使って姿を消した。
　トンビは自ら砂浜に激突。受けた衝撃ですぐには飛び立てない。
　莉鳥は素早く距離を詰める。目を閉じて前脚の指に意識を集中させた。
　ろっこん『スタンハンド』が発動。放出した電気はトンビを直撃して辺りに焦げた臭いを漂わせた。