狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

【Ｆ】霊界／ヘビの妖怪と幽霊
　四夜五栖手蹴はタール色の猫になって古巣に戻ってきた。
　――ここは相変わらず、埃っぽいですね。
　左前方、砂丘の中に埋もれるようにして黄橡（きつるばみ）駅があった。ホームではあやかしの駅員が盗撮を咎めて大声を上げる。
　巻き込まれるのを嫌った猫達は砂地に足を取られながら逃げ惑う。
　関心の薄い目で眺めたあと、手蹴は砂埃の中心に顔を向けた。
　青黒い蛇が暴れていた。上半身は人間の女性で裸だった。
　――寝子島が騒がしいと思えば、ここも同じですか。あのようなラミアが私の生活領域にくると困るので対処が必要です。まずは説得してみましょう。
　手蹴は平然と歩いて近づく。ラミアの尻尾の一撃で吹き飛ばされた雄猫を避けて言った。
「何が不満なのか知りませんが、暴れるのをやめて貰えませんか」
　ラミアは下半身の胴体を使って滑るように向かってきた。手蹴りの頭部を狙って大口を開けた。
　噛み付かれる寸前で手蹴は横へ跳んだ。
「食べることは好きですが、食べられる趣味はありません」
　ラミアは手の爪を伸ばし、手蹴の身体を裂こうとした。ゆらりと揺れて躱す。液体を思わせる驚異的な柔らかさを見せた。
「私の言葉を理解できないようですね。仕方がありません。実力行使へ移行します」
　タール色の猫の姿のままユラユラと揺れる。突然、全身が膨れ上がり、瘤のような物に覆われた。
　個々の瘤は急激に伸びた。先端が猫の顔となり、その数は十二本に及ぶ。背中には漆黒の翼が生え、翼竜のような爪を伸ばす。
「ニャー」
　可愛らしい声で鳴いて猫を主張する。が、あまりにも禍々しく、味方である猫でさえ、頭を左右に振った。
「それではもう少し猫らしくなりましょう」
　全身に猫の尻尾のような物を生やしてウネウネと動かす。周りにいた猫達は、ギニャー！　と叫んで頭がもげる勢いで左右に振り続けた。