狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　魚市場にコンノ・グラスハーベルの姿があった。四足歩行で服を着ている。姿は猫で赤茶けた毛並みをしていた。
　――活気があって、とても猫が多いです。でも、なんでしょう。不穏な空気も感じます。
　周囲から聞こえる足音に敏感で、耳に入る度にビクッと身体を震わせた。
　低いところは危ないと考え、高いところを選んで飛び乗った。人の姿ではとても通れない狭いところを忍び足で歩き、周囲の様子を見ながら歩いて回る。
　――探検している気分になります。人や猫の姿がよく見えて、少し楽しくなってきました。
　歩調にも反映されて、時に機敏な動きを見せた。
　動きが緩やかになった。
　眼下にいる白猫が同じところをうろうろしている。青黒いアライグマに群がる猫達の方を見ては近づき、怖々と離れた。諦めきれず、動きに迷いが見て取れた。
　――加わりたいようですが、空いている場所を見つけられないようです。ここから見ると、奥の方の曲がったところに隙間があります。
　コンノは素早く降りて白猫に話し掛けた。
「わたしに付いてきてください。空いているところに案内します」
「ありがとにゃ。もうお腹ペコペコにゃ」
「こちらになります」
　白猫の速度に合わせて空いたところに連れていった。
「お魚たくさんにゃ！　いっぱい食べるにゃ！」
　隙間に収まった白猫にアライグマが生魚を差し出す。猛烈な勢いで食べ始める姿を見て、コンノは満足そうに頷いた。
　――喜んで貰えて良かったです。他にも困っている猫はいるのでしょうか。
　辺りが気になり、見て回ることにした。
　意外と迷っている猫はいて、その度にコンノは声を掛けた。
「こちらが空いています。よろしければご案内いたします」
「よろしく頼むにゃ」
　バイトの能力のおかげで迷い猫は、その数を減らす。
　新たに訪れた猫には前もって伝えておく。
「満足にご飯を食べられない子がいましたら、わたしに教えてください」
「わかったにゃ。俺に任せるにゃ」
　小太りのトラ猫は胸を張って答えた。
　――これで混乱に怯えているサニーさんに会えるかもしれないです。
　歩いていると青黒い蝶を見かけた。低い位置を飛んでいる。コンノはじっと見た。
　――無害にも思えますが、念のために処理しておきましょう。
　跳び上がって引っ掻いた。切り裂かれた蝶は靄となって飛んでいった。

　その後、コンノは迷子の黒猫と出会う。サニーではなかったが腹を空かせていたので代わりに生魚を咥えて与えた。
　黒猫は半分ほど食べたところで、ありがとにゃ、と礼を言った。
　コンノは表情を和らげて、どういたしまして、と優しい声を掛けるのだった。