狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　自宅に近いシーサイドタウンの通りを水上桜は人を避けながら歩く。アクセサリーの部品が足りないことに制作途中で気付き、行きつけの店へ急いでいた。
「え、我慢大会！？」
　頭の中に響いた声に桜は驚きの声を上げた。

　辺りが一変した。白い湯気に包まれた桜は頭を左右に振った。
「ここはどこよ！」
　強制的な移動に不満が噴出した。一歩を踏み出して自身の変化にも気付いた。
「なんで猫なのよ！　ふざけないで！」
　白と茶のブチ猫になった桜はブチ切れた。周囲にいた人々の蛮行にも怒りの目を向ける。投げ付けられた風呂桶を猫特有の俊敏性で避けながら、危ないじゃない！　と漏れなくキレた。
　注意が温泉客に向いた。露天風呂にいた青黒いサルが両手で掬った湯を桜に浴びせる。
「あっつ！　誰よ！」
「キッキキー」
　青黒いサルの一匹が尻を向けた。平手でパンパンと叩いて見せる。他のサル達は、キキキー、と嘲るような笑い声を上げた。
「サルが人を、猫を舐めるな！」
　桜はポンプ式のシャンプーへ走る。前脚で押してぶちまけたところに踏み込んで四肢に塗り付けた。
「これで、どうよ！」
　温泉客の目に猫パンチを入れる。同時にシャンプーで目潰しの効果を狙った。
「目が、目があああ！」
「何も見えないぃぃ！」
「そこで大人しくしてればいいのよ！」
　トラ猫のフジコ先生が桜を目掛けて駆け寄る。
「私は美しいのよぉぉ！」
　叫びながら蹴りを繰り出す。
「猫のくせにうるさい！」
　蹴りを躱した桜の猫パンチが目に炸裂。フジコ先生は仰け反って、完全な美がぁぁ、と涙を流して倒れ込んだ。
　真打と言わんばかりに現れた白黒のブチ猫、雨宮草太郎は桜に向かって厳かに口を開く。
「かのシトラス・ガムダンが」
　言葉の途中で桜の猫パンチを目に食らった。倒れ伏し、話の途中なのに、と泣きながら愚痴を零す。
「次は誰よ！　我慢大会でも何でもしてやるわ！」
　頂点に達した怒りで露天風呂に突っ込む。
「な、なんなのよ！　熱湯じゃない！　火傷するわ！」
　近くで青黒いサル達と戦っていた恵御納久隆が怯む桜に声を掛けた。
「ボスザルは任せた」
「なんで、この私が」
　奮闘する久隆の姿を見た桜は、もう、と怒りながら湯に入る。
「根性で勝ってやるわ！」
「キッキキー」
　ボスザルは腕を組んだ姿で肩まで浸かる。
「負けないわ！」
　桜は顎先まで身体を沈めた。

　久隆の活躍もあって、桜はボスザルとの一騎打ちの状態へ持ち込んだ。