狂気の笑顔が悪意をばらまく｜リアクション

狂気の笑顔が悪意をばらまく

　橙色の子猫となったえみなハルくんはトボトボと温泉街を歩く。たまに足を止めて来た道を振り返る。
　――かーさとかやがいないと寂しいにゃ。
　騒々しい声が聞こえる。三軒先の日本家屋に目がいく。
「ハルはひとりでもがんばれるにゃ」
　また歩き出す。騒動の音が近くなり、立ち止まる。右側にある土塀はかなりの高さがあった。
「飛び乗るのは無理にゃ」
　回り込もうとして、また足を止める。歩ける場所がなかった。崖のような急斜面の下は木々に覆われていた。
「困ったにゃ。寂しいにゃ」
　心が軋むような涙声を漏らす。
「あ、猫ちゃんだ！」
　母親と一緒にいた女の子が元気に走ってきた。
「小さくてかわいい」
　しゃがむとハルくんの頭を撫でる。目を細めると背中を摩った。
「うれしいにゃ。もっとして欲しいにゃ」
「鳴き声もかわいい」
　女の子が撫でていると側に母親がきて、ロープウェーがくるわ、と小さな声で言った。
「猫ちゃん、またね！」
　手を振る女の子をハルくんは座って見送った。
　――なでなでされると、心がぽかぽかするにゃ。
　ハルくんは顔を上げた。空はとても青くて大きかった。
　――かーさとかやが探している黒猫のサニーも、きっと寂しいにゃ。だから黒白さんを探しているにゃ。なでなでしてもらいたいにゃ。
「その想い、ハルがかなえてあげるにゃ」
　ハルくんはあやかしの特殊能力を試してみた。芽生えた強い意志のおかげなのか。猫の身ながらふわりと身体が浮いた。
「成功にゃ！」
　ふわふわと浮かんで日本家屋を超えていく。
　下の方に目をやると白い煙が立ち込める露天風呂が見えた。中では狂乱した人々と暴れる猫が入り乱れる。
　その中、青黒いサル達と戦う雉白猫がいた。
「ハルは小さいからサニーを探すにゃ」
　屋根に敷き詰められた瓦に黒猫の姿はなかった。坪庭には池があり、数羽の鳥が羽を休めていた。
「いないにゃ。でも、ハルはあきらめないにゃ。なでなでは元気になるにゃ」
　路地や木々に囲まれた小川にまで目を向ける。
　ハルくんはサニーの気持ちが乗り移ったかのように熱心に探し続けた。