セイレーンが歌う夜｜リアクション

セイレーンが歌う夜

（なんとなく、うまくまとまった見たいだね）
　夢宮瑠奈は遠くからその様子を見、小さく安堵を吐く。１人で捜査していた彼女は未だ聞こえてくる歌に耳をすませつつも、さほど惹かれていない事に気がついていた。一度士と接触していたからだろうか。
　一人で行動していても埒があかない、と思った彼女は士と入れ替わるように久雨と空音の２人に合流した。

　歌に惹かれるまま海へ来ていた三ヶ島葵は、歩いているうちに完全に操られて岩場まで来ていた。カメラは持って来ていたが、操作しようにも動かせない。
（やっぱり、ダメかなぁ～？　ちょっと悔しいなぁ～）
　そう思っていた時、人の気配を覚える。その冷たさに僅かながら我に返った葵が振り返ると、そこにはにこっと笑う冴来の姿があった。
「……えっ？」
そして次の瞬間、葵は海の中へと突き飛ばされていた。
「邪魔よ」
　冴来はそれだけ言うと、ふらふらと歩き続けた。そして、少し騒がしい方向へと惹かれるように向かっていった。
　その水音を聞いたレイとレティシア、雪月が駆けつけた事で葵はすぐさま助けられた。しかし葵は気を失っており、目が覚めた時彼女はレイ達に「女の人が突き落とされる瞬間が見えた」と伝えた。
「突き落とされた……女の人？」
　雪月が口の中で反芻する。同時に浮かぶ予測。雪月は僅かに表情を険しくした。予感していた事を、見る事になりそうで、それが怖かった。それと同時に、彼女は聞いた内容から別の思いも感じ取る。
（歌は、寂しさを伝えている。この人の話を聞いてはっきりと解った）
　雪月は１つ頷く。そして、小さく呟いた。
「探し出さないと……。この人は、寂しくて仕方が無いから」
　咳き込んでいる葵をレティシアが介抱していると、レイが走り出す。その先には今にもダイブしそうな白浜渚が……！
「危ないっ！」
　レイは手を引いて渚を助けるが、ふたり揃って尻餅をつく。きょとん、とした渚だったが、彼女はすぐさまレイにお礼を言った。
「一人で行動するのは、危ないわ。一緒に行動しましょう」
「……はい。宜しくお願いします」
　レティシアに渚は１つ頷く。恐らく歌に惹かれたままだったら、海の中を突き進んで歌の主を探していただろう、と自分でも思うのだ。彼女は、歌が聞こえてきた方角を見つめ、すっ、と指差した。
「あっちの方から、聞こえてくる……」
「遠回りになるけど、こっちからでもいけるはずだよ」
　レイの言葉に渚達は頷いた。

　雨風がどうにか凌げる場所で御剣刀は浅山小淋の肩に触れ、彼女を歌から守っていた。小淋はろっこん『神様の手帳』を使う事にしたのだ。傍らではデネボラと稲場舞が見守っている。
【あの歌を想いながら書いてみましょう】
　小淋は今も聞こえる歌を想いながらメモ帳に『更新』と記す。と、手が勝手に動き出し、一文だけを記す。

　――岩場にて探し人と遭遇

（どうやら、海の中では無いようですね）
　舞はその結果に頷き、デネボラも情報を、タブレットを使って発信する。刀は女性たちの強い眼差しを見、心を決める。彼女たちは自分が守ろう、と。
『歌い手は、見つけてもらうのを待っていると思います』
「行こう」
　小淋の言葉に、刀は１つ頷いてそう言った。４人は足元に気をつけながら海辺へと進んでいく。
「それにしてもセイレーンの正体ってどんな人なのでしょうね」
　舞がぽつりと呟けば、デネボラは少し考える。歌からイメージする姿は儚げな女性だった。この歌からは悲しみと寂しさ以外に感じる物がなく、怨みや妬みなどねっとりとした物がないのだ。
「とても、心が綺麗な女性なのかもしれない」
　そう呟くデネボラの横顔は、どこか悲しみに満ちていた。