セイレーンが歌う夜｜リアクション

セイレーンが歌う夜

と、その時。不意にセレッソが声を上げる。
「んー……たくみセンセーはどこに行っちゃったのカシラ？」
「そう言えば、女子生徒を見つけたから保護してくる、と言ってましたね」
　蓮の言葉にいおりときららが頷く。
「ん？　誰かが来るみたいだ」
　何かに気づいた深雪が声を上げ、皆がその方向を見る。と、それは金髪の少女と、明らかに蓮や深雪と変わらぬぐらいの少年だった。エヴァ・ブランシェが困惑気味に蓮達を見る傍ら、久雨は僅かに警戒して問う。
「……貴様は、誰だ？」
「わいは、雨木ゼン。よろしゅうに」
　そう名乗った少年が頭を下げると、みんな釣られて頭を下げる。そして牛瀬に頼まれてこの子を連れて来たことを告げた。
「牛瀬先生は、どうされたんでしょうね。ご存知ありませんか、雨木さん」
　居心地が悪そうにするゼンを見つつ綾が不審そうに問いかければ、傍らでいおりがくすっ、と笑う。
「主人は、生徒さんの為なら頑張る人さかい。逃げたりはしませんえ。きっと、寝子高の生徒さんを見つけてるんやと思います」
　いおりの言葉に、ゼンの頬が僅かに赤くなる。それに不思議な顔をする一同だったが、久雨が何かに気づき表情を曇らせた。彼女の視線の先には、走り去る空音の姿が。
「すまない。友達にトラブルが発生した。私はそっちに向かう」
「わかりましたわ。ここからはまた分かれて行動しましょう。私は歌の正体を探りたいと思うのですが、どなたか一緒に行きませんか？」
　久雨の言葉に、きららが頷いて他のメンバーに問う。と、蓮と深雪、セレッソが彼女と一緒に行く事になった。久雨を除く残りのメンバーは、女性の保護に動く事にした。
「自分達で牛瀬先生も探しとくで。せやから、皆ほんとに気ぃつけて」
　マリベルの言葉にみんなが頷き、それぞれ動き出す。久雨は一礼し、一人駆け出した。目指すは……友人の所だ。

　暫く捜索をしていた修達であったが、足場の悪い場所に差し掛かった時友人を見つける。彼がどうにか駆け寄ると、それは維都月茉菜だった。彼女は何かに浮かされるように、歌を口ずさみながら歩いている。よく見ると、もう一人黒髪の女の子と一緒に歩いていた。修の記憶が確かならば、同じ寮の碧川雪月のような気がする。
「……維都月！？　それに碧川まで……」
「しっかりするんだ！」
　修が茉菜を、レイが雪月を保護する。と、まず雪月が不思議そうにあたりを見わたし……泣いている事に気づいて顔を真っ赤にして隠す。
「もう、大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます……」
　レティシアが手を握って微笑むと、雪月は俯いたままお礼を言う。一方、茉菜は我に返り、にっこり微笑んだ。そしてお礼を言おうとしたのだが……急に表情が険しくなる。そして、茉菜は激しく咳き込み始めた。咄嗟に受け止める修。彼は上着を脱いで茉菜にかけてやり、その上で衣服を緩め呼吸の介助を行う。仄が茉菜の背を撫で……咳の音に息を飲んだ。咄嗟に額へ手を当てれば、熱が広がる。
「……お前は肺を患っていたのか？！　ちょっとまて、熱があるぞ！　誰か……彼女を病院へ」
「運転手を待たせてある。俺が維都月を送ろう」
　修と仄の会話を聞きつつ、茉菜は激しく咳き込み続ける。少しでも和らげようとレイも上着を貸し、茉菜にかけた。
「ここから、ゆっくり離れよう」
　レイの提案に全員が頷き、茉菜を連れて安全な場所まで戻る。その中で、茉菜は涙をこぼしながら胸元を掴み、咳き込み続ける。
（どうして、友達の前で発作が起きたの？！　なんて……）
　何度も濁った咳をしつつ考えたのは、雨の中で口ずさむ程度でも歌い続けていた事。それが、もれいびとなって得た病への抵抗力を超えたのではないか、と。