おいでませ、霊界カフェ｜リアクション

おいでませ、霊界カフェ

【魔人さまのご注文】

　見た目違わず、名家のお嬢さまという肩書き？　をお持ちの楡宮遠海。しゃなりと道を歩めばさもしい男たちは振り返り、女たちは嫉妬の炎に身を焦がす……なんてのは少々前時代的でしょうか。
　けれど少なくとも霊界のとある長屋町においてはおおむねそんな感じ、みたいです。
「なんだか妙なところへ迷い込んでしまったような……」
　しゃなり、しゃなり。歩くたび、丸太のような腕をした鬼は顔を赤らめ、二口女はきーっと悔しそうに頭の口を食いしばり、人面犬の夫婦は見とれてごつんと棒に当たりました。
　さてそんなお嬢さまの一挙手一投足に注目集まる中、遠海がなにをするのかといえば。
「あら、美味しそう。この、おばけタコ焼き？　というの、あるだけくださいな」
「えっ、あるだけ！？」
「はい、全部」
　触手がウネウネするタコ焼きをどっさり抱え、ほおばりながら霊界を歩む遠海の前にあらわれたのが、あやかしカフェでありました。
　奇妙な場所へ迷い込み、少しは心細くも思っていた遠海ですけれど。カフェの文字を目にするなり飛び出したのは、
「……軽食もあるかしら？」
　でした。

　というわけで、あやかしカフェ。小人のような人形の付喪神、ありあに案内された席へ腰かけ、遠海はさっそくメニューを開きます。幽霊とか妖怪とか、怪異な客たちにおびえたりする前に、食欲が勝ちました。
「おばけパスタにおぱけオムライス。おばけカレー……どれも美味しそうね。じゃあ、メニュー全部ください」
「えっ、全部！？」
「はい、ひととおり」
　あやかしも飛び上がって驚く食欲魔人、遠海。
　やがてずらずらり、おばけパスタオムライス、カレーにステーキ、サンドイッチイモリの黒焼きタルトタタン……テーブルにはおばけメニューが勢ぞろい。どれも美味しそうに湯気をたて、かぐわしい香りを漂わせております。
　ついでにふわふわり、端から浮かび上がり始めますけれど、こと食に関してはハイスペックを発揮するのが彼女でして。
「ぱくり。あ、美味しい。ぱくぱく、ぱくり。う～ん美味しい！」
　ひとつ手にとっては食べ、またひとつ手にとってはほおばり、隙のない食べっぷり。次々にローテーションをキメていくもので、浮かぶ暇もありません。
　ぱくぱくぱくぱく、ぱくりぱくぱく。ついでにおばけタコ焼きもぱくぱくぱくりっ。

「しゅわっとして美味しくて、おばけメニュー最高！」
「あの～、お客さま？　持ち込みはご遠慮したいんですけど……」
「ああ、ごめんなさい！　でも冷めちゃうし、もったいないし、すぐに食べちゃうので！」
「うんまあ、ほんとにすぐ片付きそうだから、いいけどね……」
　あやかしも呆れる食べっぷりで、遠海はあっという間に完食してしまいました。
「ふう、美味しかった。食べると泡みたいに消えちゃうのが面白い味わいよね。それじゃあ次はなにを食べようかな」
「次！？」
　おばけメニューに霊界メニュー、最近人気だという人間界のメニューも余さず平らげ、店員さんも客たちもまとめて、あやかしの度肝を抜く遠海でありました。

「は～、美味しかったなぁ。おばけメニュー」
　最初こそ少しばかり恐ろしく思えたものの、霊界にも慣れてきました。こんなおどろおどろしい空気も、悪くはありません……もちろんそこに、美味しい食べものがあるならば。
「見てたぜぇ、姉さん。人間にしちゃあちょいとばかり、やるじゃないか」
「えっ？　誰？」
　ふと、遠海へ話しかけてきたのは化け狐。
　くつくつと笑う狐は、もったいぶって言いました。
「挑戦してみる気はないか？　おばけフードファイトによ！　お前さんなら、どんな大食いあやかしだって倒せるぜ」
「お、おばけフードファイト……！？」
　次回、風雲急！　遠海、おばけメニュー大食いプロの道へ！　強豪あやかしと極限の激闘に挑む……！
　というのはまあ、もしもいつか、語る機会がありましたらば。