おいでませ、霊界カフェ｜リアクション

おいでませ、霊界カフェ

【肝胆相照らす】

　霊界。あやかしたちのふるさと。住まいがあり、家族や友がいて、心落ち着くところです。
　三毛谷道哉もまた霊界に居を構え、長い時をここで過ごしてきました。古き友、新しき友、たくさんの友人たちもおります。
　一番新しい友人はといえば、餅々きなこでしょうか。
「きなこ、カフェに行かないか？　私の知人が最近、アルバイトを始めてね。様子を見がてらに、新作メニューでもいっしょにいただこう」
「いいねー！」
　見た目に違わず子どもっぽいきなこ、本当は道哉よりもずいぶんと年上なはずですけれど、ともかくそんな風に誘ってみるとノリ良く了承してくれました。
「イモリのくろやきも、たべたいな」
「うん、たべよう」
　そうして道を歩み、カフェへと向かって往来を行けば、道哉へ声をかけるあやかしの多いこと。
「よう三毛谷のダンナ。いい酒が入ったんで、次の宴にでも振る舞うぜ」
「なんだい道哉サン、今日はきなこ姐さんとデートかい？　うらやましいねぇ」
「三毛ちゃん、また今度ウチの店にも寄ってよねぇ」
「ははは。分かった分かった」

　そんなふうに寄ってくるあやかしたちの多くは古くから見知った顔で、道哉の家でたびたび催される宴の客でもあったりします。なにかと交友関係が広いのです。
　わいわいと賑やかな霊界の空気は、隣にふよふよと浮かぶきなこも笑顔にしてくれます。
「みちちかくんは、にんきものだねぇ」
「なに、きなこには敵わないよ」
　にこにこほわほわ、霊界は今日も楽しくおどろおどろしく、愉快で奇怪で素敵です。

　あやかしカフェにはお客がいっぱい。今日はなんだか、寝子島から紛れ込んだらしい人間が多く訪れているのだとか。
　カウンター席にきなこと並んで座り、厨房の見知った顔へ声をかけました。
「剛鉄、調子はどうだい。この店には慣れたかい」
　返事はなくて、うなずいたのみ。彼はたいそう無口なもので。
　剛鉄は無骨な武人風の老人の姿をしたあやかしで、包丁の付喪神。三毛谷家の調理一切を取り仕切る料理人です。
　包丁が本体だけあって料理には一家言あり（無口ですけれど）、時にふらりといなくなっては霊界古今東西の料理を追究しに武者修行の旅へ出かけたり、今度のようにオシャレなカフェでアルバイトを始めたりするのです。
「とりあえず、養殖イモリの黒焼きランチをふたつ、頼むよ。それにお前さんのことだから、カフェらしい新メニューのひとつやふたつこしらえているだろう？　それもおくれよ」
　やはり深々とうなずいた彼、了承の意とつきあいの長い道哉には分かります。
　まずは黒焼きイモリのランチから。さっくりからりと焼き上がったイモリを、きなこといっしょにかぷりっ。
「うん、美味い。相変わらず、剛鉄の腕は確かだな」
「おいしーね♪」
　続いて、新メニュー。本日は剛鉄さん渾身の、『黄金リンゴのアップルパイ』だそうです。
　ぱくぱく、ぱくり。
「おお、これもまた美味い！　伝説にうたわれる黄金リンゴとは、蜜のように甘いんだな。それにさくさくの生地が合う。そら、きなこも食べてごらんよ。あ～ん」
　たわむれにフォークへさしたリンゴを差し出して、あ～ん。
　きなこはためらいもなく、ぱっくん！
「ん～っ！　おいしー！」
「ははは、だろう？」
　ぱくぱくぱく、ふたりであっという間に平らげてしまいました。甘くてさくさくで、美味しくって大満足！
　と、道哉はきなこへ、それに厨房の剛鉄へ、言いました。
「今日は、お誘いがあってね。みんなで星幽塔に行ってみないか」
　星幽塔。星の力満ち満ちるファンタジーな世界。寝子島とは不思議な縁で繋がれていて、なにかと関わりが深い場所です。最近は霊界にも、星幽塔の住人たるほしびとが訪れることもあったりするようです。
　そんな場所へ道哉は、きなこや剛鉄、それに霊界の顔見知りや友人たちといっしょに訪れてみたいのだとか。
「せーゆーとー。きーたことあるけど、いったことないなあ」
「そうかね？　私もだよ。だからみんなで行ってみたいと思ってね」
「どんなとこなの？」
　道哉は知っている限りの情報を、多分に芝居がかった口ぶりで伝えました。剣と魔法、星の導きからなる多層世界。見たこともない生き物、見たこともない景色。味わったことのない食べものも！
　きなこの顔は隠せない興味でぱあっと輝き、剛鉄の眉もぴくりと動きます。
　話が盛り上がるうち、道哉の周囲にはあやかしたちも集い始めました。少年のような顔を浮かべたすねこすりの小僧へ、道哉はうぃんくひとつ。ぱちり！
「興味のある者を集って、みんなで遊びにゆこう。どうだね？」
「うんうん、たのしそー！」
　どうやらきなこは乗り気のようです。
　満足した道哉、その日のみんなのお代はオゴリとすることとしました。
「いいの？　みちちかくん」
「いいとも。我がままを言った手前と、今日のお礼をかねて、ね」
「わ～い♪」
　あけっぴろげに笑うきなこと、友人たちと、星の塔へ出かけることがでしょうか？　
　その日を楽しみに、道哉もまたふわりと微笑みました。

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おいでませ、霊界カフェ

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