おいでませ、霊界カフェ｜リアクション

おいでませ、霊界カフェ

【開店、あやかしカフェ】

　ここは霊界。いわゆるあの世、地獄の一丁目。
　などというのは言葉のアヤというものでして、ずらり並ぶ鳥居の列とか天地のひっくり返ったお屋敷とか、そこらを行き交う幽霊やら妖怪やら、人間が目にすれば奇妙キテレツな光景も、住人たちにとっては日常茶飯事。見慣れた霊界の一幕だったりします。
　とはいえ本日、ちょっぴり変わっていることがあるとするならば。
「なんだか今日は、人間のお客さんが多いわね？」
　ヴィーゼ・ベルンスタインはこてんと首を傾けます。
　ヴィーゼは吸血鬼のウェイトレスさん。あやかしたちの集うカフェにて、ホールスタッフとして働いております。そのお仕事ぶりは……なんと申しましょうか。きちんとやるべきことはこなしつつ、お客との距離感が近くてウケが良く、一見クールな才媛ぶりに反して時おり、一緒にコーヒー飲みながら駄弁ってたりします。いえその間もちゃんとお仕事はこなしているのですけれど、自分の血液を操る特技で腕を作り出し、ひょいひょいひょいっとおばけコーヒーもおばけサンドイッチも運びます。
「お客さん、今日はどちらから？　ああ寝子島ね。人間が霊界に来ちゃって、大丈夫なの？　困ってることはないかしら？　なにかあったらいつでも言ってね」
　単なるおサボりではなく、あくまで彼女の世話焼き気質が顔を出し、心配したり手を差し伸べたり。身の上話に聞き入りながらも血液の腕でひょいひょいひょい。
　そんなふうに気さくなヴィーゼだから、お客さんからの人気も高く、あやかしカフェの看板娘で通っているのでした。
「あーっ、しまった！」
「あら？」
　さっそくなにやら、お困りのお客がいらっしゃる様子。
　といっても、どうやらあやかしのようです。

　姫之崎ありあという名前を、本名と言ってもいいものか。
　ちょいとハヤリのアニメになど詳しいならば、『魔法少女ミスティックアリア』を思い出すことでしょう。そのアニメの主人公がステッキを掲げてきらきらりんと変身する前、フツウの女の子である時の名前がありあというのです。
　そのキャラクターをモチーフに造形された、１/６スケールのフィギュアが彼女。つまるところ、付喪神のあやかしでありました。
「今日はなににしようかな～。うん、タンコロリンのタルトタタンをくださ～い」
　フィギュアなもので、持ち主がおります。いつも声をかけてくれて、可愛がってくれるご主人がお出かけの間、こうして霊界へ遊びに来るのがありあの楽しみです。
　人面柿のタルトタタン風ケーキは、大好物！
「あ～ら、小さなお客さま。いらっしゃい、今日はおひとり？」
「うん。ねえ、食べていい？」
「せっかちねえ、もっとおしゃべりを楽しみましょうよ」
　話好きなあやかしケーキとの小粋なトークに興じ、柿が満足したらぱくりといただくのがあやかし流です。
「へえ、そうなんだ！　人面柿の波瀾万丈な人生ってわけね。もう食べていい？」
「そうねえ、そろそろ満足。美味しく食べてね？」
「いただきま～す！」
　ぱくり。あま～い！
　そうして人面柿の壮絶な一生に思いを馳せながら美味なるタルトタタンを堪能したところで、ぱたぱたぱたとポケットを探り、気づきます。
「あーっ、しまった！　お財布がない！」
　なんてこったい。あやかしだってもちろん、食い逃げ飲み逃げが許されるなんてことはありません。
　あやかしカフェは比較的ゆるやかなオーナーのはからいで、ツケもオーケー。ってことにはなってたりしますけれど、どちらかといえばきっぱりとしたタチのありあは、そんなふうに甘えるのも気が引けてしまいます。
「あら？　お財布忘れちゃったの？」
　そこへやってきた、クールでかっこいい吸血鬼のウェイトレスさん。ヴィーゼが言ったのでした。
「じゃあちょっと、働いていく？　今日はなんだかお客さんが多くて、大変だなぁって思ってたのよね。手伝ってもらえるなら助かるわ」
「ぜひ！」
　願ったりかなったり、てなところです。

　ここはあやかしカフェ。１/６サイズなありあにぴったりな制服だって、ちゃあんと用意してありました。
「それじゃ、よろしくね？　あ、さっそくお客さまがいらしたわよ」
「ええ、まかせて！」
　ヴィーゼとありあ、凹凸コンビでお仕事は始まりました。

「いらっしゃいませ～！」

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おいでませ、霊界カフェ

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