おいでませ、霊界カフェ｜リアクション

おいでませ、霊界カフェ

【天然が最強だよね】

「ひぎゃああああ！！」
　ちょっぴりコワモテ、京極花音。上げる悲鳴は乙女のように甲高く響きました。
　幽霊とか、オバケとか、大の苦手なのです。コワイのです。
「ぎょえええええ！！」
「ちょっとあなた、どうしたの？　そんなに怯えちゃって」
「ぬあああああ、来るな！　来るなァーーー！！」
　親切な幽霊さんが声をかけたりもしますけれど、花音は驚きおびえて逃げ惑うばかり。自分でも情けないとは思いつつ、怖いものは怖いし苦手なものは苦手なのです。
「くそ、いったいココはドコなんだよ……なんで俺ァこんなトコにいるんだ？」
　迷い込んだ先が霊界、つまるところアノ世の一画であるなどと、想像も及ばない花音。
　ひとり狼狽し、醜態をさらすならまあまだ良しとしましょう。良くはないけれど、いくらかマシというものです。
「ちくしょう、どうすりゃいいんだ。寝子島はどっちに行けば……」
「あら？　お花屋さん！　こんなところで奇遇ですね♪」
「！？」
　けれどどうやら、ひとりではなかったようでして。
　にっこり！　微笑む暁月静は不可思議な光景に怯えもせず恐れもせず、ただただ平素の可憐な佇まい。花音にとってはまるで劫火の地獄に舞い降りた清廉なる女神のごとし。
　ではなくて、想い人の前ではせめて狼狽したりシュータイさらしたりは避けなければ！　バッチリ取り繕わなければ！
「き、きぐうッスネ！　ココはちょっと危険な場所みてーなんで、早く帰りましょう！」
「あら、そうなんですか？　でもあそこに素敵なカフェもありますし。良かったらお茶してから帰りませんか？」
「はい、ぜひ！」
　これはもしやカフェデートというやつか！？　やったぜ、いやぜひじゃねーだろ俺！　とセルフツッコミも時すでに遅し、すたすたと健脚で赴く彼女について、花音もへっぴり腰のままあやかしカフェへと入店することとなりました。なってしまったのでした。

「ひぎっ……」
「ひぎ？」
「いやァいい店ッスね！　雰囲気がいい！　客も……客も上品な感じで、こう、ね！」
「皆さん個性的な出で立ちをされてますね。今日はきっとこすぷれイベント？　とかがあるんでしょうね」
「そうッスね、ははは……！」
　椅子やテーブル、調度品の類も落ち着いて品があって、素敵です。漂うコーヒーの香りもかぐわしく、軽食のたぐいも美味しそう。
　確かに普通のおしゃれなカフェです。幽霊、妖怪、付喪神……客層や対応するスタッフに目をつぶるならば、ですけれど。
（こらえろ！！　どうやら彼女は気付いてねえ、俺が平静を保っていれば大丈夫。叫んだり慌てふためいたり、パニックにならなけりゃきっと、彼女を危険な目に遭わせることもねえ……！）
　自分のこわがりがバレる程度ならまだしも、彼女に恐ろしい思いをさせるのは本意ではありません……まー今のところ、なんとも頼もしい落ちつきっぷり男前っぷりですけれどね、彼女。どうにも天然さんがすぎるようでして。
「わあ、メニューも変わってます！　おばけメニューですって。お花屋さんはなにを頼みますか？」
「こ、コーヒーで。普通のやつで！」
「そうですね、初めてのお店に来たら、まずはスタンダードなものを注文しますよね！」
　通じているんだかいないんだか、納得とともにはきはきと注文を飛ばす彼女。応対するウェイトレスさんも明らかに人間じゃなかったりしますけれど、ま、もう今さらですか。
　やがてコーヒーのカップがふたつテーブルに置かれると、彼女は優雅な仕草で、花音はがちがちにぎこちない手つきで口へ運び、ひと口。こくん。
「！　うまい……」
「ええ、とっても美味しいですね♪」
　ふと。今日顔を合わせてから、初めて落ち着いて真っすぐに、彼女を見つめた気がします。ずうっと気を張っていましたから……今なら周りのおばけたちの目（ぎょろっとしてたり、たくさんあったり）も、気になりません。
　彼女と目と目が合って、一瞬、見つめ合って。それからほっこり、微笑んで。
「こんなに素敵なお店で、お花屋さんとコーヒーをいただけて。今日はとってもいい日です」
「……俺もッス」
　なんだかんだと、花音にとっても記憶に残るひと時となったようです。
　この上は早くあやかしいっぱい空間から解放されたなら、言うことはないのですけれど。
（は、早く帰りてえ……けどこうやっていっしょにお茶できるなんて貴重な時間だ、できる限り長く……ああでも、ああっ！）
　しばし幸せに浸りながらも、葛藤に暮れる花音でした。

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おいでませ、霊界カフェ

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