古木に囚われて｜リアクション

古木に囚われて

　日向が運んできたしめ縄を美野梨が受け取っている所へ、道哉が飛び込んできた。
「人が閉じ込められている場所が分かったぞ！　古木そばの古民家、眠っている人が５人、動けるのは２人」
　道哉が女王蜂が人を刺している事を伝えると、２人の顔色が変わった。
「すぐに助けなきゃ！　私、旅館の倉庫から燻煙器と燃焼材を取ってくる。さっき見つけたの」
「建物の大黒柱は腐りかけている。何かに使えるか？」
「じゃあ、人を助けた後は僕が斧で壊そう。建物がつぶれれば、追っ手も減るだろうし」
　３人は頷きあって立ち上がった。
　まずは、古民家にそっと近づいて、猫の道哉が姉妹に予告。
　外から見える基礎には攻撃をしておく。
　２つあった燻煙器を美野梨が持ち、古民家の中に煙を充満させる。
　防護服を着るのは日向と、人間の姿になった道哉で、姉妹と寝ている人を救出。
　救出を終えた時点で、美野梨は日向と役割を代わり、道哉と共に助けた人を連れて旅館へ。
　残る日向は蜂を引きつける囮だ。
「っでぇい！」
　道哉が見た大黒柱に、思い切り斧を振りかぶって叩き付け、旅館とは違う方向に全力疾走だ。

（家を壊しちゃったけど、人命救助なので許して下さい！）

　建物がきしみ潰れる音、蜂の羽音を背に、ひたすら走る。

（過去の雪川村を見られれば、何か解決策が見つかるかもしれない）

　日向のろっこんが力を現し、周りの風景が変わっていく。
　最初に見えたのは作業服の人たちと古木。チェーンソーが入ると、花が満開になるものだ。
　見える風景はどんどん時を遡り、雪川村の住人や建物は増え、姿も変わってゆく。　
　“ぱらいそ様”はいつも同じ場所にたたずみ、涼む木陰や美しい花、秋の恵みを与えてきた。
　そして、そんな“ぱらいそ様”に害を為す者も絶えず。
　ある時は軍人であったり、時の領主が訪れたり、木こりが斧を振るい、木を食い荒らす虫が大挙して押しかけた時もあった。

　しかし、“ぱらいそ様”が傷つくとあの蜂が姿を現し、加害者に襲いかかるのだ。
　
　――そして。

　最後に残るのは常に、傷だらけの“ぱらいそ様”なのだった。