古木に囚われて｜リアクション

古木に囚われて

　大荷物を旅館に置いた美野梨は、ポケットのキャットフードを確認。
　蜂に注意して歩き回っていると、猫の方から美野梨の方を見つけて駆けよってきた。
『にゃあ』
　鳴き声をあげ、猫たちと念話を始める。
『お前、俺たちの言葉分かんの？　ならメシくれよ。最近人間は寝てばっかりでさ～』
『そうだぞ、虫には追い回されるし！』
『あらあら、ごめんなさいね。どうぞ召し上がれ』
　黒猫とトラ猫は村の住人や建設作業員に可愛がられていたらしく、すごい勢いでカリカリを平らげてしまった。
『あなた達、追い回されてるって言ってたけど。虫のこと教えてくれない？』
『ん～？　あぁ、あいつら木が傷ついた時にだけ来るんだってさ』
『そうそう。普段は山奥にいるから、木には手出しするな、ってひいじいちゃんが言ってた』
『木って、あの青紫色の花が咲いている？』
『おう。ちょっと前に、人間が木を切ろうとしてさ。ばーって花が咲いたんだ』
『うん、人間は怖がって終わりにした次の日、虫が来たんだよな』
　２匹は、蜂に追い回された時はうるそ様のほこらに隠れているとも教えてくれた。

◆

「花吹雪に閉じ込められる……ご神木と熊の神様かぁ」
　呟きながら、日向は建設事務所に向かっていた。
　ご神木というわりには、遠目に見た木にはしめ縄は巻かれていなかった。工事の際に外されたなら、建設事務所にあるだろうと考えたのだ。
　失礼します、と断って事務所に入る。
「えーっと……あった。丁寧にしまってあるなぁ」
　事務所の片隅でしめ縄を発見した日向は手にとってみた。少々古びてはいるが、まだ使えそうだ。
「後は何かあるかな」
　机の上に出しっぱなしになっていた業務日報によると。
　古木の伐採作業を行う前、村一番のお年寄りに伺いを立てることになっていたのだが、急に亡くなって果たせなかったらしい。
　日向は事務所の壁に貼られた地図を見て、うるそ様のほこらの移転先を確かめ、そこへ向かった。
「あったあった。あの新しい看板の所だな」
　看板に書いてある作法を守ってお参りし、ほこらをじっくりと観察してみる。
　“うるそ様”は、村の人間が山に入る時、安全祈願をする神様のようだ。ご神体は木彫りならぬ熊の石像である。

（蛇に虫、獣を避けられます……迷わず無事に戻れるようにお参りしましょう、か）

　日向は一礼してから、ほこらを後にした。

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