古木に囚われて｜リアクション

古木に囚われて

　蜂が巣へ戻るであろう夕方。
　美野梨たちも準備を終え、“ぱらいそ様”の元へと向かった。
　しめ縄は修繕し、作業用の台車で運んでいる。
　２つある防護服は、しめ縄担当の日向と道哉が着ている。作業員たちはひたすら恐縮していたが、代わる訳にはいかない。
　残った面々は、殺虫スプレーや強力線香で武装し、戦々恐々だ。
「あ、“ぱらいそ様”が見えた」
「行くぞ、日向」
「はい！」
　日向と道哉は台車を押して突撃し、両端からしめ縄をもって“ぱらいそ様”の脇へ回り込む。
「“うるそ様”のマフラーはすごいな、ほんとに蜂が来ない」
　２人に近づく蜂は、見えない壁にぶつかって落ちるので、邪魔されずにしめ縄をしめる事ができた。
「終わったぞ！」
　道哉の合図で残った面々が殺虫効果のある線香をつけて、頭を下げた。
「“ぱらいそ様”、この度は、あなたを傷つけてしまい、誠に申し訳ありません！」
　責任者だという男性が進み出て、言葉を続ける。
「私が責任を持って、本社に事の顛末を報告し、二度と傷つけないよう尽力いたします！　どうぞお許し下さい！」
　次の台詞は、自然と全員が一致した。
「なにとぞ我々をお返し下さい！　お願い申し上げます！」
　頭を下げつつ、美野梨は思った。

（本来神様は、人間の意向なんて気にする必要は無いのよね……寝子島はちょっと例外だけど）

　手を握り合っている紫と蒼を横目に、どうか聞き届けて欲しいと願わずにはいられない。

　――そして。

　強く風が吹き、“ぱらいそ様”が大きく揺れたかと思うと。
　ばっ、と一気に花が散った。
　風に吹かれた花びらが、一瞬人の姿に見えたのは気のせいだったのだろうか。

　その後は、もう。
　１１月の夕空に、枝を伸ばす古木が佇むのみ。
　蜂の群れもぐるりと古木を周り、山奥へと飛び去って行った。

◆

「ねぇ、お姉ちゃん。雪川村伝説って、何だったんだろうねぇ」
　無事に雪川村から帰還して、２週間。
　仙藤家の朝、ＴＶは『雪川村行方不明者、全員無事』のテロップと、“ぱらいそ様”の傷口に薬が塗られ、周りに柵が設けられた、というニュースを流していた。
「木の実と蜂蜜には幻覚作用があった、が真相だと思うわ」
「うわっ、何かそれ、悲しくない？」
「確かに悲しいけれど……もし本当に願いが叶っていたら、雪川村は騒がしくなっていたでしょうね」
　それは村の神々が望まぬことだったのではないか……などと考えながら、紫は蒼に味噌汁を出す。
　天気予報はマフラーいらずの陽気だと告げていたが、なぜかくまさんマフラーの感触が恋しくなった紫だった。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

皆さまこんにちは。
『マヌカハニーのお値段にびっくり！』したことのある陣　杏里です。

野菜図鑑を読んでいて発想したした今回のシナリオ、
出られない不思議な村のお話（ちょっぴりホラー）をお楽しみ頂けましたでしょうか。
ご参加下さった方、お読み頂いた方、どうもありがとうございました。

失礼します。
陣　杏里でした。

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