古木に囚われて｜リアクション

古木に囚われて

　――楽しいハイキング、の筈だった。
「わっ！」
「な、何？　今の花」
　仙藤紫と仙藤蒼の姉妹は、山歩きを楽しむ帰路で小休止をと、雪川村に立ち寄っただけ。
　なのに、村から出ようとすると吹き荒れる花吹雪に邪魔されてしまう。
「人はいないのね」
　雪川村は山間の土地に、小さな家が寄り添うようにして建つ集落だ。
　詰まれた薪や、崩れかけた土壁、草葺きの屋根は大昔から時が止まったかのよう。
「しまった、リゾート施設開発予定地、関係者以外立ち入り禁止って書いてある」
　蒼は、さっき気づいた看板を見て気まずげにしている。
「じゃあ、住んでいた人は移住したのかしらね」
　そこまで考えたところで、ふと、紫の脳裏に蘇るものがあった。
「リゾート開発……雪川村……もしかして、ここが伝説の雪川村？」
「えっ、それって今ＳＮＳで盛り上がってるやつ？　願いが叶う村だけど、何を願っていたのか誰も思い出せないっていう」
「都市伝説的なものじゃなくて、実在していたのね」
　紫はぐるりと村内見回すと『雪川村役場』と書かれた石造りの建物と、現代的なプレハブの『建築事務所』が目についた。
「とにかく、出られない事は確かよね。ちょっと建物に入らせてもらって、情報を集めましょう」
「了解！」
　姉の声に、蒼は元気よく手を上げた。

◆

『十分に気をつけるけど、もしもの時は通報お願いね』
『……分かった。行ってらっしゃい』
　知人に行き先を告げた美野梨は、スマホをしまって立ち上がった。
　今、雪川村の手前にいる美野梨のリュックは、旅行の準備と蜂対策グッズでぱんぱんだった。
　何せ、通りがかりの職員室で漏れ聞いてしまったのだ。

『雪川村に行くと言っていた久保田先生と連絡が取れない。事故か？』
　――と。

「美和先生、無事かしら」
　放っておけないと思った美野梨は、ネットで十分に下調べをしてから、現地に行くことを決めた。
　深呼吸をして、雪川村に足を踏み入れる。
　足下で、風に吹かれた花びらが、ふわりと舞い上がった。

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