寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　ピザとこたつとコーラ。
　ピザとこたつとコーラだ。二度書いた。
　昨日土曜日はもちろん本日も、日が落ちるあたりまでは季節が巻き戻ったような陽気だった。そろそろコートがほしい時期なのに陰気な北風はどこかに隠れ、アツアツの太陽がファンキーなリンボーダンスを踊っていた。旅人はマントを脱ぎ捨てるどころか、セパレートの水着を用意してここはバハマあたりかと錯覚したかもしれない。それくらいのヒートウェーブだった。
　ところが太陽が休息に入るやたちまち主役変更、北風がブレイクダンスを披露したのである。別名寒波、容赦なき変化、インディアン･サマーかこのザマときた。朝（あした）に道を聞かば夕べに死すとも可なりと論語に言うが、朝と同じ服装をしていれば夕べ過ぎて真夜中には凍死体のいっちょ上がり確実といったあんばいの攻撃的な寒さが襲ってきたのだ。
　数時間前までの亜熱帯あれはなに？　血も凍る寒さで温度計は急降下、だから吉住志桜里はハロウィン☆デイズ見物を終えてシーサイドタウンのシェアハウスに帰るや否や、血眼でこたつへタッチダウンしたのである。
「寒ぅー！　生き返るぅー！」
　伊達の薄着がたたったか、全身氷点下にして脳までアイスみたいな志桜里であるが、腰から下の熱がじわーっとあがってきて少しずつ人間味を取り戻しつつある。
「ていうかなに外、急に寒すぎ！　殺しにきたっつーか！」
　ガタガタ震えていた吉住獅百合も、寒さで失いかけていた理性回復の途上だ。
「ほっと一息、だよね」
　この顔ぶれでもっとも冷静なのは卵城秘月かもしれない。両手をおこたに突っこんで極楽な表情だった。
　まあ実際寒かろう。凍えもしよう。
　なにせ志桜里ときたら薄いロンTに黒い翼生やした軽装、黒いホーンと尾を装備して悪魔っ娘でございときたものである。
　獅百合にいたってはさらにすごい。虎側のビキニの鬼っ子、赤い角までカチューシャで生やし、地獄の沙汰もマネートークといった具合だ。当然体温はガンガン奪われ、帰宅時は唇が紫になっていた。
　秘月は彼女らに比べればだいぶ厚着、すなわちキョンシー装であった。袖の長い道衣にチャイナ帽、もちろんお札も垂れ下がっている。本当はこのお札、顔に貼るべきものかもしれないが、前が見えないのも困るので帽子の縁に貼り付けていた。
　かくして鬼悪魔キョンシーと、子どもの怖がるものトリオにてしばし暖をとっていたがそれからまもなく、部屋のチャイムがピンポンと鳴った。
「パーフェクトタイミンッ！」
　デビル志桜里は玄関に馳せ、ホットな正方形の箱を三枚手にして戻ってきた。
「外回ってる間に頼んどいたわ。とにかくぱーっとやっちゃいましょ？」
　開ける。正方形の内側は正円だった。腹ぺこに効くチーズの香り。獅百合と秘月の口から賞賛の声が上がった。
　ピザだ。マルゲリータ、シーフード、チキンテリヤキ！　すべてMサイズ三枚三様魅惑のトリロジー。おまけに骨付きチキンとナゲット、揚げポテトの詰まったトレジャーボックス付きではないか。注文は一時間前すませておいたので、空腹が頂点にたっしたところでデリバリー、熱烈歓迎ご来光となった次第である。
「天才！」獅百合は極上の賞賛を提供する。「なんと用意周到な姉、妹の仕事は皆無っ！」
「待ってて」
　秘月は冷蔵庫から極太のペットボトルを運んできた。木製の特大ジョッキもふたつ、あとひとつはふつうのグラス、アイスボックスから氷をだーっと投げ込んだやつも忘れずに持参した。
「ピザとこたつとコーラというのもたまにはいいものだよね」
　ピザピザピザチキンチキンポテトアーンドコーラ、カロリーのことを考えれば爆弾みたいな組み合わせだが思考停止だこんなときは。ジョッキふたつをコーラで満たし、鬼と悪魔にひとつずつ渡す。自分の分はノーマルサイズのグラス、ただし表面張力と競うがごとく注いだ。
　ジョッキもちあげて志桜里は言った。　
「ブルックリンスタイルの部屋にこたつを敷いて、卓上に並ぶは堕落の権化オールスターズ、樽ジョッキいっぱいのコーラ……ええ、これぞ和洋折衷っ」
　感無量、志桜里は同志二名に呼びかけるのである。
「じゃあ乾杯！」
「乾杯！」
「お疲れ様でしたーっ！」