寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　食べて、と柚春は言った。
「はい。ファッジだよ」
　紙袋をあけて見せた。
　とっても甘いイギリスのスイーツだ。ヨーロッパでもっとも甘いという説もある。砂糖と練乳を溶かしあわせてバターを加えた甘みの爆弾、ココア味が定番だが、チョコレートやシロップで味付けたものもある。テイストいろいろ色味もさまざま、小さなサイズでたくさん作ってもってきたのである。
　ベンチにさそって座って待つ。
「ここまでされちゃ逃げられないなぁ」
　かるく笑ってウォルターは隣に腰かけた。長い脚を自然に組んだが、少し考えたか解いてまっすぐにそろえる。
「では執行を待つとしようか」
　ウォルターは肩をすくめる。
「口を開けて。食べさせてあげる。味はランダムだよ。覚悟はいい？」
「遺書なら机の引き出しに入ってる」
　えいっ、と柚春は目をつぶってえらんだ一粒を彼の口に放り込んだ。
「抹茶味だ。いいね。香ばしい」
　これは当たりだ。つづいて、
「メイプルシロップかな？　好みだよ」
　これも当たりらしい。でも、
「うわっ醤油味かい！？　相性がいいとはいえないな」
　ハズレだってある。咳き込む彼に柚春は魔法瓶を開けてお茶を渡した。
　げほげほと咳き込むウォルターはお茶を飲んで一息ついた。
「驚いた？」
「驚いたよ。まさかキムチ味とかないだろうね？」
「ない……と思う」
「含みのある言い方、怖いなぁ」
　ところがウォルターは嫌がる様子もなく、「じゃあネクストだ」と楽しげなのである。どうやら彼もこのゲームに乗ってきたらしい。
「チョコレート味だ。よし、定番だね。今度は僕が稲積にも食べさせたいなぁ」
「ええっ」
「僕だけ集中爆撃というのは片手落ちだよ。いいじゃないか？」
「うん……じゃあ、当たりを選んでね」
「はは、じゃあ目をつぶって選ぶから。期待しててくれよ」
　数秒後、大当たりもとい大ハズレのワサビ味が柚春を襲ったのである。
「ワット！　これはないよ！」
「ご、ごめんよ。じゃもうひとついこうか。ココナッツフレーバーでもあったらいいんだけど」
　かくてつづくはロシアンルーレットならぬロシアンファッジ。秋がすぎていく。