寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！｜リアクション

寝子暦1371年のハッピー・ハッピー・ハロウィン☆デイズ！

　魚人サンマ氏に番号で呼ばれたルイセは、元気に返事してステージへと走り出る。
　この階層でいうスカウトは、人前に立つのが仕事なのね。
　どうやらルイセの知る『斥候』という意味ではないのかもしれない。斥候は隠密が絶対条件、なのにここではむしろ目立つことが求められているからだ。所変われば品変わる、階層変わればスカウトも変わるということか。
「ええと、で、何するんでしたっけ？」
　サンマ氏に訊くと彼（たぶん男性だろう）は即答した。
「パフォーマンスを見せてくれ！」
　パフォーマンス！？　私、芸人じゃあないですよ？
　ひるみかけたがルイセはすぐにピンときた。
　はっはーん、なるほど！
　あえて目立つのがこの階層でのスカウトだとすれば、その任務は『陽動』にちがいない。それはそれでスカウトっぽいではないか。
　ステージ下にたくさんの観衆がいますね。このなかに保護対象者がまぎれてて、その安全確保のためにパフォーマンスで目立って、保護対象者へ注目が行かないようにする作戦というわけですね！
　ならば、多少トチってもパフォーマンスで凌ぎきるまでです。
「ルイセ･ミュレーズです！　普段は、森の番人や冒険者やってます！」
　威勢良く述べると拍手で迎えられた。
「えー、では特技として弓矢やナイフ腕前を披露したく」
　と言いかけたものの、なんだか一部の観客、主として男性が不服そうな顔をしていることにルイセは気がついた。
　ひょっとして、そういうの求められてない！？
　どういうことなのだろう。さっき剣劇のパフォーマンスをしていた人たちもいたというのに。
　でもルイセの頭の回転は早い、剣劇の男女はそれにふさわしい格好をしていたと思い至った。
　この衣装を活かす路線のパスフォーマンってことね。つまり、つまり、狐っぽい踊りとか？　そうだ、きっとそれが正解だ！
　ならばスカウトとして使命を果たすまで。ルイセは役になりきると決めた。尻尾を振りながら、両手を招き猫の手みたいに上げて、上半身を右に左にかたむけコンコンと鳴く。実際の狐はコンコン鳴かないことをルイセは知っているが、これは役柄なのでそれでいいのだ。さらにに両手を上下に上げ下げしながら、クルリと回ってコンココンとリズミカルに歌い踊る。
　当然ひらひらと衣装が揺れる。薄い布ゆえきわどいことになる。俄然、一部客層は盛り上がった。
　最後に大きくジャンプして決めのポーズだ。布が胸の前の布が、一瞬まくれあがりそうになったが究極のポイントだけは守り切った！
　恥ずいが、ヤりきったぞ私……！
　大歓声を浴びてルイセは、満足げにうなずくのである。
　この依頼は、割増料金請求対象ですね。
　ルイセは思った。
　請求書はサンマ氏にでも回せばいいのだろうか。それともマンボウ氏か。

　なおルイセには、「んふふっ」と含み笑いしつつ秘子が『審査員特別賞（胡乱路秘子）』を用意していたのだが、ルイセは表彰式に姿をあらわさず預かりとなってしまった。
「ルイセさんいつでも取りに来てくださいませ」
　マイクを手に秘子は会場に呼びかけたのである。開封されなかったので賞品が何かは謎のままだ。