６月の★ハッピーバースデイ｜リアクション

６月の★ハッピーバースデイ

【エルデスト１Ｆ】

「ももは歌上手いなァ、ありがとう」
　恥じらいがちに帰ってきた花風ももの頭を、鹿黒暖簾が優しく撫で、
「では私も、ももさんの歌のお礼に１曲」
　続いて森蓮もヴィオラを取り出し、渋い無伴奏ヴィオラ・ソナタを聴衆に披露する。
「今日は夜空が綺麗だからね、キラキラ星変奏曲なんかも弾いちゃうよっ！」
　モーツァルトがアレンジした技巧曲を、今度は楽しげに天馬ひびきが弾き出し、一転、ウキウキした雰囲気に包まれる会場。

　誰もがその有名曲を口ずさんでは笑う中、
「おっと、おぼろにぷれぜんとも渡さねぇとな」
　ごそごそと、そこで蜂須賀ルドが取り出したのは、
「じゃーん、俺手作りのめいど服だぜ！」
「プレゼントってそれだったんかよ！？」
　期待しろと言われていた霧谷朧もびっくりだ。
「さいずもぴったりだぜ。有無は言わせねぇぜ」
「いや、ちょっ待つんよルド、俺は女装とかそーゆーのは……うわあああああ！」
「なんてよ、ほんとはこっちがホンメイだぜ」
　とそのメイド服の下からひょいっと差し出されたのは、猫とてるてる坊主のオルゴールだ。
「えっ？　ルド、これって……」
「猫が俺でよ、てるてる坊主がおぼろみてぇだろ？」
「ああ……そうだな。そっくりさね。ルド、ありがとな」
　その小さなオルゴールに頭を寄せ合い、じっとその音色の１つ１つに耳を傾ける２人だ。

　そしてパーティの最後に、１６歳になった夢宮瑠奈が、ひびきのピアノの前に進み出る。
「１６歳になっても、冒険に出るわけでもなければ、王様にもあわないけれど。
　でもだからこそ、今日みたいなフツウが何より貴くて。
　あたしはこの賑やかな世界を、いつまでも見ていたいなって思うんです」

　そっとその淡い瞳を閉じ、今日までの３ヶ月の出来事を思い出す。色々なことがあった。
（トラブルばっかりだけど、
　手の届かない戦いがたくさんだけれど。
　らっかみがもたらしたこのセカイ、侑ちゃんとのこの出会い──）

「大事にしたいのです」

　目をひらき、そこで顔を上げる瑠奈。彼女を見守る皆に向かって、
「だからあたしは、セカイに祝福を与えたい。
　今日はあたしが祝福される側だけれど、だからこそ。
　皆にありがとうという気持ちを精一杯込めて。
　素敵なハッピーバースデイを歌おうと思います」

　Happy Birthday to You,
　Happy Birthday to You,

　心を、込めて。

　そして森蓮も、同じテーブルの猫村翡翠や、御剣刀たちに穏やかに語りかけていた。
「生まれてくるということは、それ自体奇跡です。
　物理定数の数値がわずかに異なるだけで、今のような宇宙は生まれませんでした」

「人は２人の両親から生まれ、４人の祖父母、８人の曽祖父母、１６人の高祖父母がいます。
　１０代さかのぼれば祖先は１０２４人になります。
　その誰かが子供を産まなければ、私は生まれませんでした」

「また、人は両親から染色体を２４本ずつ受け継いでいます。
　その組み合わせは１０の６００乗以上です。
　少し異なるだけでやはり、今の私はいません」

　Happy Birthday to You,
　Happy Birthday to You,

「他の方も同様に特別な存在です。
　生まれてきたことに感謝しましょう」

　いつしかハッピーバースデイのフレーズは、会場全員の大合唱になっていた。祝われる者も祝う者も、みな手拍子を合わせてその歌を唄う、笑顔と笑顔を交換する、そして大切な人の名前を口にする。この場に来れなかった人の名前だって、思う気持ちがあれば、かまわない。

　Happy Birthday,

　Dear　姉小路ネイサン　雨宮草太郎　綾辻綾花　鹿黒暖簾　神野美野梨
　上穗木千鶴　北玄　霧谷朧　久保田美和　笹森清真　時枝香苗　晴海飛鳥
　六月一日宮檸檬　美崎岬　森蓮　夢宮瑠奈　ロベルト・エメリヤノフ

　ひびきの伴奏もどんどん早くなる、
　つんのめるような早口になり過ぎて、全員がその場で吹き出しそうになる。
　それでもどうにか笑いをこらえて、
　最後はロウソクを吹き消すような長い長い息で、

「ハッピ・バース・デー、トゥー・ユー……」

　盛大な拍手と共に、みんながお腹を抱えて笑い出し、
　そうして、エルデストの誕生日パーティは無事、お開きになったのだった。

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