華やかなステージにようこそ｜リアクション

華やかなステージにようこそ

　日曜日の木天蓼市内、目抜き通りを秋の装いの人々が足早に行き交う。道沿いの衣料店では早々と冬物のバーゲンセールが行われていた。若者を中心に賑わい、はち切れんばかりの紙袋を両手に提げた状態で尚も店内を忙しなく歩き回っていた。
　葉利沢倫理子の身体を乗っ取ったMariceはショーウインドウに横目をやると鼻で笑った。
「ペンギンみたいね」
　全く興味がないのか。その一言で通り過ぎた。生欠伸を噛み殺して黒いハーフコートのポケットに両手を突っ込む。
　冷ややかな無表情で黙々と歩いた。その目が鋭利な刃物のように細くなる。不自然に片方の口角を上げて、見つけたわ、と陰鬱な声で呟いた。
　前を歩く朝鳥さゆると姫木じゅんを追いかけるように足を早めた。小さな声でも耳に届く範囲に入ると速度を落とした。
「お久しぶりね、お二人さん」
　背後からの声に二人の身体が強張る。さゆるとじゅんは、ほぼ同時に振り返って眉を顰めた。
　Mariceは値踏みするような目で笑う。
「相変わらず、仲がいいのね」
「関係ないわ」
　さゆるは冷たい一言で切り捨てる。
「冷たいわね。あんなに身体を貪り合った仲なのに」
　Mariceはコートの上から自身の胸を掴んで捏ね繰り回す。口は喘ぐような形で開き、赤々とした舌が情念を纏った炎のように揺らめく。
「いくわよ」
　見るに堪えないとじゅんがさゆるの手を握った。速足となって道を進み、目にした路地に連れ込んだ。
　Mariceは嫌らしい笑みを浮かべて二人に迫る。
「こんな暗がりにきて何をするのかしらね。卑猥なことなら喜んで参加するわ」
　Mariceは下唇を舐めた。
　二人は振り返らず、半ば走るような状態で不規則に道を折れた。人通りの多いところや見通しの悪い道を選び、逃げることに専念した。
　Mariceは瞬きを忘れて追い縋る。一瞬、姿を見失っても執念で見つけ出した。
「また、見失ったわ」
　人通りの多い道でMariceは足を止めた。歩道に二人の姿が見えない。道路を挟んだ向こうにもそれらしい人物はいなかった。
　怒りを孕んだ眼は建ち並ぶ店舗に向かう。喫茶店や飲食店は素通りして、ある店舗に目が留まる。水着ガールズバー『ジュエル』の店名を見て嫌らしい笑みを浮かべた。
「若い女性が来ないような店が、逆に怪しいのよね」
　獲物を追い込むような目でMariceは店に立ち入り、やっぱりね、とカウンター席にいたさゆるとじゅんに向けて呟いた。