華やかなステージにようこそ｜リアクション

華やかなステージにようこそ

「昼の開店は新鮮かも」
　バックヤードにいた真境名アリサは改めて口にした。スマートフォンを見ると午前十一時を迎えようとしていた。
　革張りのソファーに座っていた店長は腕時計に目を落とす。
「採用したダンサー達が来る頃だな」
「そうね。最後の打ち合わせをしないと。それと未経験者の緊張を和らげないとね。本番はダンサー一丸となって盛り上げるから、そこのところよろしく」
「楽しみにしているよ、副店長」
「任せてよ」
　笑顔で親指を立てて見せる。そこにノックが聞こえて、どうぞ、とアリサは明るい声で返した。
　約束の時間よりも早くに全員が揃った。早速、最終の打ち合わせに入る。踊る順番や曲の確認で時間を取られることはなかった。進行に関しても異論は出ず、すんなりと話が纏まった。
「久しぶりのステージは燃えるぜ」
　長身の青年は意欲を燃やす。本番に向けて各々が自身に見合った方法で気合を高めた。経験の浅い者達は強張った顔を隠すように壁と向き合い、それとなく深呼吸を繰り返す。
　目にしたアリサは自信に満ちた笑みを浮かべる。
「今日のステージは、きっと盛り上がるわ。皆のやる気がすごく伝わってくる。ここまでの努力を信じて最高のステージにするわよ」
　そのさりげない励ましは全員の胸に情熱の火を灯すのだった。

　正午を迎えて水着ガールズバー『ジュエル』は開店した。通常と違う営業時間ではあるが事前の告知のおかげで店内は早々と客で賑わう。少年や少女の姿が多く見られた。挙ってカウンター席に陣取って、ノンアルコールのカクテルの深い味わいに笑みを零した。
　用意した観客席は三十分と経たずに埋まった。後方では立ち見の客まで現れた。
　頃合いとばかりに店内が薄暗くなり、ステージにスポットライトが当てられた。光の中心にはバニーガールに扮したアリサがいた。マイクを手にした姿でにっこり笑うと前列の客が指笛と歓声を送った。
「今日は明るい時間帯にも関わらず、たくさんの方々にお集まりいただき、誠にありがとうございます。厳選されたダンサー達によるポールダンスを心ゆくまでお楽しみください」
「もちろんだよ！」
「一番手が気になる！」
　飛び交う声に向かってアリサは小さく手を振った。ステージ袖にいたキャストにマイクを渡すと中央に戻る。
　観客は不思議そうな顔でアリサを見つめた。起こるざわつきはアップテンポな曲に瞬く間に呑み込まれた。
「一番手はあたしよ！」
　長い髪を振り乱して踊り出す。合間に脚を前方へ高々と上げて後方宙返りを見せた。
「おお、マジか！」
「そうくるか！」
「体操選手みたい！」
　曲に合わせた手拍子が起こる。アリサは激しく踊りながら笑顔で跳んだ。
　ポールを両手で掴み、逆さまの状態となって足を絡めた。腹筋を活かして上体を起こすとすかさず片方の脚を折り曲げて挟んで身体を固定。高みから観客を誘うような両手でリズミカルに踊る。
　最後は背筋を伸ばして立ったような姿勢で滑り落ちる。床と数センチのところで止めて観客席に笑顔を向けた。
　曲と連動した踊りに観客は盛大な歓声と拍手を送る。
「場は温まったよね」
　アリサは満足した顔で手を振りながらステージを降りた。