華やかなステージにようこそ｜リアクション

華やかなステージにようこそ

　ステージが見えるカウンター席で佐和崎紗月はノンアルコールカクテルをちびちびと飲んでいる。コンクラーベはコクのある甘味が売りなのだが、紗月は過度の緊張で酸味寄りの表情を浮かべていた。
　隣では初瀬川理緒が赤いグラスを手にしてゆっくりと回す。ステージではダンサーが切れのあるトリックを連発して大いに観客を沸かせていた。その熱気が伝わるのか。理緒はノンアルコールのレッドアイを喉に流し込んだ。
「あんな技を見せられたらテンション上がるよね」
「私は逆に心配になるわ。私達の踊りと比べられたら……」
「紗月は本当に心配性よね。もっと自分の努力を信じなよ。副店長さんに素質があるって言われたよね？」
　理緒の覗き込むような目に紗月は頷き、グラスの中身を一気に飲み干した。
「ごめんね。本番前に弱気になって」
「あたし達、グラドルの本気をステージで見せつけてやるわよ」
　笑顔の理緒に紗月は微笑みで返した。

　白熱したステージに束の間の静けさが戻る。待機していた真境名アリサは中央に立ち、スポットライトを浴びた。
　口元にマイクを近づけると目を輝かせて言った。
「サプライズゲストになります！　島民なら誰もが知っている現役のグラビアアイドル、初瀬川理緒ちゃんと佐和崎紗月ちゃんの登場です！」
　呼ばれた二人は水着姿でステージに現れた。予想外の展開に観客は大いに盛り上がる。
　熱い声援と悲鳴にも似た歓喜の声が上がった。
　先頭の理緒は常夏の海のような色合いのビキニであった。観客に向けて軽やかに手を振る。
　紗月は青いチェック柄のビキニで胸のフリルが愛らしさを醸し出す。控え目に笑って小さく手を振ると、可愛い、と観客席の中程にいた少女達が黄色い声援を送った。その声の大きさに恥ずかしさが募り、伏し目になって下を向く。
　理緒は紗月の状態に気付いた。露骨に振り返らず、そっと相手の手を握った。
　瞬間、紗月の目が丸くなる。顔を上げると理緒は朗らかに笑っていた。観客席から見えないように顔の角度を変えてウインクをした。
　二人は手を繋いだ状態でステージの中央に立った。紗月は観客席に真っすぐな視線を向けて胸を張る。
　一瞬の静寂。緊張と期待が膨らんだ中、曲が始まった。軽快な音に乗るように理緒と紗月は踊り出す。
　切れのある動きは一端のダンサーを思わせる。期待以上の出来栄えに観客は一斉に沸いた。
「粗削りだけど、なんか伝わってくる！」
「マジで泣きそうなんだけど」
「これもう、ダンサーだろ！」
　ポールは二本、用意された。理緒と紗月は銀色に輝く棒を背にしてバラバラに踊る。激しく頭を揺り動かしながらアイコンタクトでタイミングを計る。
　二人は同時にポールへ跳び付いた。高い位置で握ると同調して回る。途中で片足を絡ませて両手を離し、観客に爽快な笑みを見せた。
「さっきまでと違う！」
「シンクロ率がヤバイ！」
　拍手の大きさで曲が途切れ途切れに聞こえる。二人は気に留めず、ポールダンスに集中した。次々と技を決めていく。
　そのトリックは初級と中級で構成された。が、完成度だけで言えば上級にも迫る。更に弾けるような二人の笑顔は観客の心をがっちり掴んだ。
　曲が終わっても拍手が止まない。ステージ中央で燃え尽きたように立つ理緒と紗月にいつまでも声援と共に送り続けた。