華やかなステージにようこそ｜リアクション

華やかなステージにようこそ

　ねこったーで呼び掛けた反響は大きく、ポールダンスを希望する者が、連日、水着ガールズバー『ジュエル』に訪れた。真境名アリサは副店長の傍ら採用面接を受け持ち、対応に追われた。
　その結果、十数人が採用となった。ステージの進行等で全員と打ち合わせを行う。経験の少ない者や初心者にはアリサが時間を作ってダンスの指導に当たった。期間は一週間と短いものの参加者の意欲のおかげで難なく最終日を迎えることができた。
　アリサは観客の視点で舞台となるステージを眺める。
　個々が練習の成果をステージで発揮した。
「よく曲を聴いて。トリックを出すタイミングが少し遅れているわ」
　時にアリサは指導者の視点で指摘をした。
　ステージ横では佐和崎紗月が心配そうな顔で見つめている。やや丸い背中で前に組んだ両手は微かに震えていた。
　隣にいた初瀬川理緒はニッと笑い、紗月の背中を軽く叩いた。
「紗月、猫背になってるよ」
「そんなこと言われても。あの人、とても上手なのに指摘されているし……」
「確かに上手いけど、あたし達が緊張することはないよね。一緒に頑張ってきたんだから、もっと自信を持とうよ」
　理緒は目に力を込めて言った。
「……そうよね。私と理緒ちゃんは、この一週間、本当に頑張ったよね」
「副店長さんに教えられたフィジカルトレーニングもして技の切れも増したわ」
「理緒ちゃん、ごめんね。前日なのに弱気になって」
「もう大丈夫ね」
　二人は気負うことなく、ステージに立った。曲に合わせた踊りを披露してポールに手足を絡ませる。幾つかのトリックを織り交ぜて笑顔で演技を終えた。
　アリサは組んでいた手を解くと拍手を送る。
「よくここまで仕上げてきたわね。二人にはポールダンスの素質、あると思うわ」
　耳にした理緒と紗月は手を取り合って喜んだ。
　その後もダンスは続き、全員が無事にステージをこなした。クールダウンのストレッチを終えると参加者は爽やかな顔で帰っていく。
　三折部朝衣は一人、アリサの元へ走った。
「明日のステージの演出でご相談したいことがあります」
「あまり大掛かりな仕掛けは無理よ」
　アリサは即答して相手の出方を窺うような目となった。
「店内の照明とスポットライトの位置の指定をお願いしたいのですが、無理ですか？」
「それならできるわ」
「実はですね」
　周囲に聞かれないように朝衣は小声で話した。アリサはにんまりと笑って、任せてよ、と自身の胸を軽く叩いた。