【ハロウィン】可笑しなお菓子な甘い島｜リアクション

【ハロウィン】可笑しなお菓子な甘い島

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時生はなんとなしに通学に使う道を歩いていた。普段自分が通る道だから、本能的に選んだともいえる。
その道中、美味しそうなものは迷わず味見。気に入った味のものや、珍しいものは寮から持って来たバケツに放り込んでいく。
気が向けば寄り道もするし、気まぐれにお菓子の島を満喫していた。

「さっきのビターチョコレートくん、なかなか美味しかったな。他にも、人の形をしたお菓子ってあるのかな」

先ほど遭遇したロベルトのことを思いだしながら、てくてくと歩いて行く。

「それにしても、おれの夢なのに普通だな。いつもはもっとはちゃめちゃな夢を見るのに……ん？」

道の先に人影があることに気づき、時生はすっと目を細めた。

「女の子と、男の子の、お菓子かな？」

時生の中ではこの状況はすべて夢であり、自分も含めてすべてお菓子になっている、と思い込んでいる。
そのため人型だろうが猫型だろうが、すべてお菓子だと認識していた。

「あの人たちは、どんな味がするのかな。まさに夢でしか味わえないお菓子だよね」

自分たちが食べる対象となっていることも知らないまま、夏朝は望春を支えながらなんとか歩いていた。
望春の体はもうほとんど飴になっていて、一歩足を踏み出すことさえも辛そうな様子。
夏朝は細い腕に力を込めて、どうにかその体を支えていた。

「ごめん、俺のことおいて行ってくれて構わないよ。案内できなくて申し訳ないけど……」
「それはいいよ。でも少し休もう？きっと休んだらまた動けるようになるよ」

望春の体を民家の壁にもたれさせると、その体はすぐに地面へと座り込んでしまった。
力なく笑う望春をひとり残して行くことは、夏朝には出来なかった。

「僕も少し休憩。行けるようになったら声をかけてね」

夏朝は望春の隣にちょこんと座ると、携帯を取り出した。
修からその後の連絡は特にない。

「ねぇ、きみたち」

休憩中のふたりに影が落ちる。見上げると、優しそうな笑顔で時生が覗き込んでいた。
暖かな雰囲気の時生に、ふたりは警戒心無く視線を向ける。

「きみたちは……どんな味がするの？」

続いた言葉を聞くまでは。

「味……？」
「ね、どんな味？味見、させて……？」

時生は飴になった望春の手を持ち上げるとその先をちゅ、と咥えこむ。
ぺろりと舐めると「甘いね」とにこりと笑った。

「な、なにして！？」
「きみは飴細工みたいだね。おれはほら、ハニーキャラメルみたいな味がするんだ」

そう言って望春の口元に自分の指先を持って行く。
少しずつどろりと溶け始めたそれは確かにハニーキャラメルの味がした。

「な、なんでそんなに落ち着いてるんだよ！身体がお菓子になるんだぞ？」
「なんで、って……どうしておれの夢なのにそんなに怖がることがあるんだ？」

望春の問いかけに時生は不思議そうに首を傾げる。
望春は思ってもみなかった回答にしばらく言葉を失っていた。

「だめだよ」

見かねた夏朝が時生の肩に手をかける。少し弾力の残る柔らかな手触りは、確実にキャラメルのものだろう。
夏朝は少しだけ顔をしかめた。

「意志があるものを無理やり食べたら」
「それもそうかもね」

諭す様な夏朝の言葉に、時生はあっさりと頷く。
そして夏朝の隣に腰を下ろした。

「ちょうどいいや。夢のはずなのに眠たくて仕方がなくて……少し隣を失礼するよ」

そう言って瞬く間にすやすたと寝息を立てはじめた。

「あー、ほら、俺もう動けそうにないし、恵御納さんは先を急いだ方が良いかもしれない」
「ひとりは、だめ。ちゃんといるから」

望春の申し出に夏朝はゆったりを首を振った。
望春はそれ以上は何も言わなかった。そしてゆっくりと、完全な飴になっていく。

「こんなに甘い世界なのに、どうしてこんなに、怖いんだろう……」

望春の言葉に、夏朝は応えることができなかった。