【寝子島全土:早朝】
気づけば島中がそわそわとした空気に包まれる季節になった。
黒とオレンジを基調とした装飾が、島の中を彩っている。
まだ朝日も昇っていないような時間。ひとりの男が甘い甘い夢を見ていた。
男の夢の中で、寝子島は美味しいお菓子で埋め尽くされ、家の壁はクッキーに。
窓は白砂糖。カステラの生垣にラムネの海。色とりどりのジェリービーンズがあちこちに落ちていた。
男は寝子島中を歩き回り、満足がいくまで食べ続ける。
最後にたどり着いたのは、彼の母校でもある寝子島高校。そのグラウンドには待っていました! と言わんばかりの大きな大きなアップルパイが!
男が嬉しそうにそのアップルパイに手を伸ばした瞬間、男の設定していた目覚まし時計がけたたましく鳴り響いた―――。
【寝子島高校1年5組教室:朝】
「最近いつもその飴持ってるねーののこちゃん」
七夜 あおいは
野々 ののこの鞄から覗く小瓶を指差した。
ののこは小瓶を鞄から取り出す。中には色とりどりの飴玉が入っていた。
「最近人気なんだって! いっこ食べてみる?」
「いいの? ありがとう!」
ころん、と手のひらに転がったそれを口に含むと、あおいは思わず目を見開いた。
「美味しい! 飴ってこんなに美味しかったっけ?」
「でしょー! ひとつ買ったら美味しくて、ついつい買っちゃうんだよね」
飴玉の入っていた小瓶のコルクの蓋には「Candy LICORICE」のロゴが焼印されていた。
【甘い香りの漂うCandy LICORICE店内:昼】
「ご来店ありがとうございます!」
店内には硝子の瓶が並んでいる。
この店も例に違わず、オレンジ色のかぼちゃや黒い蝙蝠のオーナメントで飾り付けをしていた。
壁際の棚には色とりどりの宝石のようなキャンディが、硝子の瓶の中に詰め込まれ。
女の子の夢を叶えてくれるお店、なんて。そんな噂が出来上がった。
中高生向けの女性雑誌に取り上げられて以来、女の子たちの間で知らない人はほとんどいない。そのお店の名は「Candy LICORICE」
店長を務める柚川 湊は柔らかな物腰とさわやかな笑顔で、最近では20代30代の女性からも人気を集めている。
平日の昼間だというのに、休憩時間のOLや近所の主婦、買い物帰りの大学生などであふれかえる店内。
湊は忙しいそうに、しかし笑顔のまま接客を続けていた。
かつん。
湊の視界の端に飴玉が転がりおちる。
湊は少し首をかしげ、賑わう客達に気付かれないようそっとその飴玉をエプロンのポケットへ仕舞い込んだ。
【Candy LICORICEの製造場:夕方】
製造場には大きな機材が並んでおり、そこから溢れんばかりの甘い香りが漂っていた。
湊は椅子に座って、先ほどの飴玉を見つめていた。
「おかしい、最近僕の能力とは関係なく飴玉が生まれている気がする」
そう、柚川湊もろっこんの力を得たもれいびのひとりだったのだ。
それは、心をこめて飴をつくると、舐めた人がいい夢を見ることができるというものだ。
元々甘いものが好きだった湊は、このろっこんで見た夢にインスピレーションを得てこのキャンディショップをオープンさせたのだ。
そうこうしている間にも、足元へころころと飴玉が生み出され続けている。
湊の意思に関係なく、かすかに手を振るだけでも生み出される飴玉。
さすがに床に堕ちた飴玉は食べられないし、どうしようかな、などと、手の上に生み出された飴玉を口の中に放り込む。
「どうしようかなあ」
考え込むように机へと突っ伏す湊。
「今朝は……目覚ましの時間を間違えちゃったから……、ねむいや」
湊の瞼はどんどんと重たくなっていく。
「なんだか美味しい夢を見ていたような気がするんだけどなあ……」
そしてとうとう、完全に目を閉じてしまった。
「少し、寝てもいいかな。飴玉のことは後でなんとかしよう……」
しばらくして、規則正しい寝息が聞こえ始める。
それを見計らったかのように、足元へ転がる飴玉が増えていく。
ころころ、ころころと。
【?:?】
暗闇の中で緑の両目が光る。
「これは少し、困った暴走の仕方だな」
テオの声と共に、この世界に亀裂が入った。
【寝子島全土:朝】
眠っていたもれいびたちは、自分を包む甘い香りに目を覚ます。見れば、掛布団は薄い砂糖で織られたものに。ベッドはクッキー、扉はチョコレート。道端には大小さまざまなキャンディが転がり、寝子島中を甘い香りで満たしていた。
「すまないが、お前たちに頼みがある」
テオの声が響く。
「最近ののこが贔屓にしている飴屋がある。これはそこの店主の仕業だ。……この甘すぎる夢から、醒ましてやってくれ」
苦々しげなテオの表情が目に浮かぶようだった。
「猫にチョコレートは毒だからな」
甘い香りがあなたを誘う。
あなたも甘い夢を見ませんか?
(その節は多大なご迷惑をおかけいたしました。もしもう一度ご信頼をいただけるのなら幸いでございます)
いつだって甘い夢に溺れていたい。こんにちは不肖時織です。
お菓子の島へようこそ。
【終了条件】
Candy LICORIC店内で飴玉を生み出し続けている湊を夢から醒ますことです。
きっと山のような飴玉に埋もれている事でしょう。
さて、湊はどんな夢を見ているのでしょうか?
アクションの内容により、当初の終了条件が満たされない場合は時間経過で元の寝子島に戻ります。その場合、参加者の皆さんはしばらくの間お菓子が食べたくて仕方がない衝動に駆られてしまう、かもしれません。
【参加条件】
もれいび・ひと、どちらも参加可能です。
が、Candy LICORICEの飴を食べたことがある、もしくはシナリオ内で食べてしまった方は“徐々に体がお菓子になっていく”のでお気を付け下さい。
習慣的に食べていた人>一度だけ食べたことのある人>テオの世界で食べちゃった人>食べてない人
という順にお菓子になります。なりたいお菓子があればご指定をどうぞ。指定がなければクッキーになります。なお、お菓子はもろいのでお気を付け下さい。完全にお菓子になってしまった方はその場から動けなくなりますので、ご了承ください。
(お菓子になってしまう、という情報はもれいびの方にはテオから伝えられます。ひと、のみなさんは事前情報として得ることはできません。リアクション内で他の参加者から教えてもらうことは可能です)
【寝子島】
テオの切り分けた寝子島です。建物や配置は皆様のよく知る寝子島そのものですが、すべてお菓子でできています。食べてもお腹を壊す心配はありません。
ののことあおいはリアクションには登場しません。が、代わりに1年5組の教室にふたりにそっくりなクッキーが落ちています。見たい方はぜひ1年5組の教室へどうぞ。
切り分けた張本人のテオは漂ってくるチョコレート臭に怯えてどこかに隠れてしまっています。解決するまで出てくるつもりはないようです。
【きゃんでぃーりこりす!】
Candy LICORICEは柚川 湊が1人で経営しているキャンディショップ。
シーサイドタウンのキャットロードの中にあるこじんまりとしたお店です。
飴は硝子の小瓶に量り売り。次回来店時に瓶を持ってきてくれたリピーターの方は少し割引して販売しています。
はじめて来店した人用に味見用も。湊の手が空いていれば温かいお茶も出してくれます。
お店は大きくとられた窓とその前に並べられた色とりどりの飴玉。単色のものもあれば色々な色が混じったものも。
お店の奥が製造場となっていて、湊はその2階に住んでいます。
【店長】
柚川 湊(ゆずかわ みなと)
20代半ば。色素の薄い茶髪でいつもふんわりと笑っているため相手に警戒心を抱かせない見た目です。
木天蓼大学出身(学部は不明)好きなケーキはアップルパイ。
心をこめて飴をつくると、舐めた人がいい夢を見ることができるもれいびです。
夢に溺れるだけじゃあ、現実は変わらないのです。