【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者｜リアクション

【１０周年】吾輩は見た～週刊かぎしっぽのねこねこ記者

「おや、これは……？」
　飼ってる猫達の導きか、はたまた不思議な縁なのか、夏のある日、八神修は週刊かぎしっぽを拾った。
　ぺらぺらと捲ってみると、覚えのある写真がある。
　誰かに見られているなんて思いもよらなかった海での一場面だ。

●週刊かぎしっぽvol.XX133『夏の砂浜、真っ赤な夕暮れ』

　毎日暑い日が続いているにゃ。
　読猫のみにゃさんも太陽が高い昼間は日陰でゴロゴロしていることと思うにゃ。
　夕方になると海から涼しい風が吹き始めるにゃ。
　吾輩も涼を求めて浜辺に行くと、猫たちの中に八神修くんと七夜あおいちゃんがいたにゃ。

　例の『けもの』ブームで、ふたりは水着の上に耳と尻尾のついたパーカー羽織っていたにゃ。
　修くんはウサギで、あおいちゃんはオオカミかにゃあ？
「あおい、受験勉強はどう？」
「んー。ちょっと大変かな。数式とか英単語とかで頭がいっぱい。でも頑張らないとね」
「俺で良ければいつでも力になるよ」

　よく分からにゃいが、人間の若者はある時期、いっぱい勉強をしないといけないらしい。
　人間は猫よりいろんな生き方があるみたいにゃ。
　選択肢がいっぱいありすぎるから、なりたいものになるために勉強するらしいにゃ。
　寝て、起きて、狩りをして、ご飯を食べて、遊んで……それ以上に何をする必要があるのか、吾輩には分からにゃいが、人間は猫より『社会的動物』ってやつらしいからたいへんにゃー。

「波の音が心地いいな」
「本当だね」
「自然音には『1/fゆらぎ』という波形が現れて、脳をリラックスさせると言われている」
「あはは、また勉強みたいになってるよ、修くん」
「あ。つい……」
「ざざん、ざざん。今はそれだけ分かれば充分。――ああ、見て。陽が沈むよ」

　真っ赤な光が海も空も染め上げて、修くんもあおいちゃんも真っ赤っかにゃ。
　にゃにゃー。なかよしさんなのにゃー。

「記者猫がいたのか……けど候補が多すぎて特定できないや」
　気恥ずかしく思っていると、偶然あおいと出くわした。
　記事を見せるとあおいも照れ臭そうだ。
「なかよしさんに見えたんだね」
　あおいもそこに照れたということが、修は内心嬉しかった。自分もそうだったから。
「寝て、起きて、狩りをして、ご飯を食べて、遊んで……猫みたいに生きられたらいいのになー」
　きっと自分はそれだけでは物足りないだろうと頭の片隅で思う。けれど何より。
（俺の望みは……）
　あおいの横顔を見つめる。
（君といること）