UNDYING KINGDOM｜リアクション

UNDYING KINGDOM

【反攻】

「おし、ガソリンゲットだぜ！」
「こっちも見つけたぞ」
　ユウ、テオがそれぞれに掲げて見せた携行缶に揺れるガソリンは、彼らにとって確かな成果ではあった
　しかし言わずもがな、ここは死者の世界だ。いかに人間が賢しく立ち向かおうと、彼らに敵う道理はない。
　それでも生き延びるため、死力を尽くしてあがき、活路を見い出す……それが八神修の信念であり、彼の知識と臨機応変な勇断あってこそ被害を最低限に抑えることができた。そう考えるべきだろうか。
「……しまった、これは！」
　碧緑の人魂群に囲まれ、それを避けて慎重に進むうち、彼らが誘導されていることに気づく。浮かぶ人魂の配置に、作為的な意思を感じ取る。
「罠だ、下がれ！」
「えっ？」
　身をかがめて人魂をくぐりぬけ、ほっとひと息をついた美和先生をこそ、敵は待ち構えていたのだ。
「これで助かった、と思ったかしら？」
「い……いやああああ！！」
　ゴーストの王族、その一人。三宅葉月の腕が美和の胸を容赦なく貫き、生命力を吸い上げる。
　いかにも目立つ人魂の罠は、そこに目を向けさせるためのブラフだ。真の罠は、目に見える形で配された人魂に安堵し、油断を誘ったところに潜む葉月自身にあったのだ。
「うああ、ああああ……」
「や、やべえ、美和ちゃんセンセーを助けねーと！　どーする！？」
　修を振りかえり問うユウの視線には、リーダーへの期待があった。
　瞬時に修は思考を巡らせ、状況を鑑み、決断を下す。そう断ずるを得なかった自身を胸中に責めながら。
「……脱出するぞ！」
「なっ、見捨てるのかよ！？」
「見捨てはしない！　救出すべきだ、が……！」
　奥歯が砕けそうなほどに噛みしめた修の表情を見て、ユウもテオも悟ったことだろう。
「この状況での救出は無謀……ここで俺たちが全滅を喫すれば、その機会すら失われてしまう」
　これは敗北でも判断ミスでもない。圧倒的な存在に対して修の取りうる最大限の抵抗であり、反攻への確かな一手なのだ。
「仲間は必ず取り戻す」
「……やってみればいいわ」
　感情のこもらないアンデッドの瞳を睨みつけ、修の決意はさらに強く結ばれた。

「意外に冷静だったわね」
　葉月は捕らえた獲物を牢に投げ入れ、ふむと思案する。
　人魂の罠で、本来ならば全員を捕らえてしまうはずだった。一人を捕らえれば、浮足立つ彼らの破綻した救出作戦を逆手にとり、いくらでも優位に立てるはずだった。しかし、彼らの判断は思いのほか正しかった。
　鉄牢には先に捕らえた黒崎と美和が力なく横たわっている。狩りの成果としては、上々ではあるが。
「鶴見さんのほうは、どうしたかしらね……？」