UNDYING KINGDOM｜リアクション

UNDYING KINGDOM

【楽園の日々】

　素敵な曇天。陰鬱な空気も最高。今日も死に生きるアンデッドたちには最高の日よりだ。
「……おや？　なんだかさわがしいねえ」
「何かあったアルか」
　スケルトン伯爵が喧噪を聞きつけ、キョンシー娘は小首を傾げる。
　アンデッドたちの楽園、アンダイイング・キングダム。確かに今日は何やら、その街並みがざわついているようだ。
　ゴースト少女がふわりと宙で身をくねらせながら言った。
「それがね。王国に、人間が何人か迷いこんだらしいわ」
「なにぃ。人間だってぇ……！？」
　腐り行くゾンビの目もぎらり、活き活きと輝きはじめる。
　アンデッドたちにとって、人間は生気にあふれるごちそうなのだ。その柔らかな肉を、満ち満ちた生命力をいただけるとあらば、死者たちも目の色を変えるというものだ。
　しかし、
「でも今回は、女王たちが直々に動くらしいわよ」
　ゴーストが言うなり、彼らはすとんと肩を落とした。
「なーんでえ。それじゃあ、俺たちみたいなザコアンデッドにゃ関係ねえじゃないか」
「諦めるしかないアルな」
「はっはっは！　ま、今日のところは、この素晴らしい曇り空を堪能するとしましょうか」
　結局彼らの日々に変化は訪れず、朽ちた街をえんえんと巡り、見慣れた溶岩の流れを眺めるばかり。

　街の中心には彼らの戴く宮殿がある。
　いかな不死者とて無秩序のままではいられない。アンデッドにも彼らを統率する支配者がいるのだ。
「で。迷いこんだ人間は何人です？」
「は、はい。全部で８人のようです」

　報告を受け、けだるげに身を起こす。まるで全く興味がないかのように。
　アンデッドの王族のひとり、女王・鶴見五十鈴は万事がこの調子だ。彼女が望むのは不死者としての静かな永遠であり、にわかに飛びこんでくる騒がしさは刺激ともならない。これもまた、冷たいアンデッドの多様な性の一つと言えた。
「とはいえ、これが仕事ですからね。人間は捕らえなければ……」
「……また人が迷い込んだの？」
　ふらり、ゆらりと姿を見せたゴースト。彼女もまた王族の一人であり、名を三宅葉月といった。
「ちょうど良かった。葉月さんも手伝ってくれませんか？」
「いいのかしら……？　私が人間を捕らえたら、魂をもらうわよ」
　ゴーストである葉月は生きている者の魂を削り、我がものとするのだ。
　五十鈴は肩をすくめた。
「お好きに。何にせよ、人間は追い立て、狩り出し、捕らえなければ」
　王族が担う役割とはつまりそれだ。
　不死の王国を健全に維持するため、果たすべき使命を果たすのだ。
「人間と不死者は、決して相容れないのですから……」

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