UNDYING KINGDOM｜リアクション

UNDYING KINGDOM

【変わらない日々】

　素敵な曇天。陰鬱な空気も最高。今日も死に生きるアンデッドたちには最高の日よりだ。
「……で？　人間には逃げられてしまったと？」
「もったいないことしたアルな。少しだけでも味見したかったアル」
　スケルトン伯爵が言うと、キョンシー娘は肩を落とす。
　アンダイイング・キングダムに一時満ちた喧噪は既に、凪のように収まっていた。
　ゴースト少女は宙にて身をくねらせ、
「ま、女王様たちも気まぐれだものねえ」
「しゃあねえ。またいつもの日常に戻るだけさ」
　腐れゾンビも日々変わらない曇り空を見上げ、肩をすくめた。

「もったいないことをしたものね」
　どこかトゲのある三宅葉月の言葉にも、鶴見五十鈴はとぼけた声を返すのみ。
「私はルールを重んじるのみですよ、葉月さん。不死者には不死者の、生者には生者のルールをね」
「だから見逃したと？」
「あるべき場所に帰っていただいただけですよ」
　未だ不満げな葉月に、五十鈴はにっこりと笑みを浮かべて見せた。
　捕らえた人間を永劫に縛り、魂の搾取を続けることはできただろう。その甘美は葉月のみならず、五十鈴をも満たしたはずだ。
　しかし王族のみがその幸運に与っていて、不死者たちに良い気がするだろうか。あの人間たちのみで、全ての不死者の渇望を埋めることなど到底できはしない。王国の安寧のためには、人間の存在など初めから無いほうが良いのだ。
　などという説明を、五十鈴はあえて語って聞かせはしない。そんな義理はないし、何より億劫だ。
　彼女はただとこしえの王国で、静かにゆったりと暮らしていたいだけなのだ。
「まあ、退屈しのぎにはなったのではないですか？　追いかけっこも悪くは無かったでしょう」
「……そうかもね」
　同じ王族たる彼女を責めていても仕方ないと思ったか、葉月は王宮を抜け出し、今日も厚い雲に覆われた空をたゆたう。
　不死者ならば当然のように、人の魂を欲するものだ。頓着しない五十鈴が稀なのであり、葉月の欲求は何ら不自然なものではないのだ。
　故に満たされず、葉月はあてどなくさまよい、あのバスが走り去った橋のたもとへ何とはなしに訪れ、物思いにふけった。
「あ……あれ？　ここどこ！？　私、どうしてこんな場所に……！？」
　それからどれほどの時が経ったのだろう。
　気が付くと一人の年若い少女が目の前で、泡をくっていた。
「あのっ、すみません！　私、気が付いたら迷いこんでいて。どこから帰れば……あれ？　あなた、それ、浮いて……に、人間じゃ……ない？」

　緑の瞳が獰猛に、輝いた。

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。
　お待たせしました。『アンダイイング・キングダム』、リアクションをお届けいたします。

　アンデッド、不死者ときたら、ファンタジーものには欠かせませんね。私もなにかこう、暗澹としながらも特別の魅力を感じてやみません。むかーしむかしに読んだ菊池秀幸氏の小説とか、ロメロ映画とかによる薫陶のタマモノかもしれません。
　ゾンビ好きな方、吸血鬼好きな方も、それぞれにインパクトを受けた作品があったりするんではないかなと思います。良かったら、皆さんのフェイバリットアンデッド作品を教えていただけたら嬉しいです。

　それでは、今回もご参加いただきましてありがとうございました。
　また次のシナリオでお目にかかれますことを、心よりお待ちしております。
　お疲れさまでした～！

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