たとえばこんな出会い方｜リアクション

たとえばこんな出会い方

●大学での出会い

「僕とウォルター先生の年が近かったら、もっと「友だち」っぽくなれたとでしょうか……」
　倉前七瀬がウォルター・B先生を未だに「先生」と呼んでいるのは、年齢が離れているのが要因な気がしてならない。
　今は友だちになったというより、してもらったという気もする。
　もっと友だちっぽくなりたい。そう思うが、それにはどうすればいいのか。
「うーん、年が近かったら、もっと違っとったんでしょうか」
　現実では年齢差はどうにもならない。
「たとえば、ウォルター先生が大学生の頃に自分と出会っとったら……」
　読みかけの短編集を手にし、互いが大学生だったら……と想像する。

　大学の講義室。七瀬は空いている席を探してキョロキョロしている。
「あ、あそこ空いてる」
　見つけた席に近づこうとした時、綺麗な金髪が目に飛び込んできた。
（青くて綺麗な瞳。外国の方でしょうか……？）
　その人は、真剣な表情で本を読んでいる。
（何を読んどるんでしょうか。活字好きとしては気になります。洋書やったらわからんけど……）
　離れているので文字が良く見えない。
　何の本なのか気になって仕方がないので、目を凝らしてジーッと見る。
　そのことに気づいたのか、七瀬が気になっている人は本を閉じ「何？」と声をかけた。
　邪魔をしたかな？　という気まずさと声をかけられたことで、七瀬は焦った。
「ご、ごめん！　キミが何読んどるのか気になったんでつい……」
　閉じられた本を見て、それの内容が気になったことを伝える。
「ああ、この本。アメリカで買った日本の短編小説の翻訳版だよ。『檸檬』という小説が好きでね」
　そう言って、英語翻訳された梶井基次郎の短編小説の見せてくれた。
　英語なので内容はわからないが、英題の「Lemon」は理解できた。
「僕はレモンが好きで、搾りたてのレモン果汁を数滴落とした熱い紅茶を飲むのが朝の日課なんだ」
　今日も大学に来る前に飲んだんだ、と本を捲りながら話す。
「キミはレモンが好きなんだ」
　本とレモンをきっかけに、２人は少しずつ会話をするように。
「僕は倉前七瀬。キミは？」
「イギリスから来たウォルター・Bだよ。よろしくね、倉前」
　同年代なので、七瀬は彼のことを「ウォルター」と呼び捨てで呼ぶことにした。

　この日を境に、七瀬はウォルターを大学内で見かけたら一緒にお昼を食べましょうと誘ってみたり、講義の話をしたり。
「さっきの講義、難しかったね」
「そうだねぇ。僕もわからなかった」
　学食でお昼を食べながら愚痴をこぼしてみたり。
　卒業したら別々の道を歩むかもしれないので、一緒にいられるまでは、こうして楽しく過ごしたい。

　……と、もしもを考えてみたものの、やっぱり七瀬が僕が好いているのは色々な経験を積んだ今のウォルター先生かも。
「今度先生に会ったら、そう伝えてみましょう」
　突拍子もなさすぎて「どうしたの？」と笑われてしまうかもしれないが、想像してみたことを伝えたい。
　伝えたら、ウォルター先生はどのような反応をするだろうか。
　それが怖くもあり、楽しみでもある七瀬だった。