たとえばこんな出会い方｜リアクション

たとえばこんな出会い方

●昔の貧しい農村の母子だったら

「例えば私が私じゃなくて、きなこがきなこでない別の存在の世界があったらどんな形だろうね」
　三毛谷道哉が餅々きなこの顔を見ながら、急にそんなことを言い出した。
「とつぜんどうしたの？　みちちかくん」
「んー？　いや、ただの思い付きだよ」
　きなこが育ったらどうだろう、と前に考えてしまったから。
　あるいは別の立場だったら、２人は仲良くなれたのだろうか。
　普段は一見すると父娘だが、もし母と子だったらどうなっているのだろう。

　大正時代のとある農村に三毛谷みつおというボサボサの黒髪の少年がいた。
「お母さん、僕が大きくなったらたくさん働いて楽させてあげるからね」
「突然どうしたの？」
　農作業の途中にそう言われた母のきなこは、息子の突然の言葉に少し驚いた。
　１本三つ編みにした灰色の髪。元気な若い母。
　きなこの夫、みつおの父は貧乏な家庭をどうにかしようと街に出稼ぎへ。そのため、今は母子二人で暮らし。
　みつおはまだ５歳だが、農作業や家の手伝いをして母の手助けになるように頑張っている。
「どうもしてないよ。前からそお思っていたから」
「じゃあ勉強して、いい学校をでないとね」
　頭を撫でながら、きなこは息子の夢を応援してあげたいと思う。
「うん。僕がんばる！」
　その日を境に、みつおは何事も一生懸命に取り組んだ。
　学校に通うにはお金がかかるので、母と一緒に農作業に勤しんだり、近所の人のお手伝いをしたりして稼ぐ。
　勉強するには本が読めないといけないので、読み書きは学校に通っている猫好きのお兄さんに教わることに。
「僕に勉強をおしえて！」
　頭を下げ、必死に頼み込む。
　みつおの頑張り具合いを知っていたお兄さんは、時間がある時に教えてあげると言ってくれた。
　それから、農作業や家の手伝いの合間を縫って勉強を教わることとなった。

　元気に振る舞うきなこだったが、休みなく働いているので体調を崩すことも。
「お母さん、体調が悪いなら休んで。僕がかわりに畑仕事にいってくるから」
「でも」
「いいから。親孝行だよ。たまにはゆっくりして」
　申し訳ないと思いつつ、きなこは息子に甘えて休むことに。
「お母さんの分もがんばるぞ」
　母の分も汗水たらして鍬をふるい、畑を耕す。
　休むと言ったきなこだが、木の陰に隠れてみつおの農作業をそっと見守っている。
　みつおだけでは日が暮れる、と近所の人や友達が手伝ってくれた。
「みんな、ありがとう」
　村のお友達、近所のお姉さん達が休憩しようと差し入れを持ってきてくれた時は嬉しかった。
　近所の人の応援、手助けがあるからみつおは頑張れる。

　長年の努力の甲斐あり、みつおは母を楽にさせたいという夢を叶えた。
　寝る間も惜しんで猛勉強し、農業大学へ進学。
　卒業後は農商務省（農林水産省）へ。
　そこで吸収した知識を活かすべく故郷の農村で新種の作物を栽培したり、収穫をして売り出したりと村の活性化に尽力。
　出稼ぎをする必要がなくなったので、年老いた父は農村に戻ってきた。
　こうして、親子は農村で近所の人達と仲良く暮らしたのだった。

「……というのはどうだろうか」
「めでたしめでたしなのはいいけど、わたしがおかあさんでみちたかくんがこどもってのは……」
　何だか歴史の本みたいな話だね、ときなこは苦笑い。
「機嫌を損ねてしまったかな？　きなこもちをご馳走するから直してくれるかい？」
　それを聞くなり、きなこはご機嫌に。
　父と娘で話したほうが良かったかな？　と思う道哉は、きなこに急かされ、きなこもちを買いに行った。