たとえばこんな出会い方｜リアクション

たとえばこんな出会い方

●憧れの生活

　鴻上彰尋は、家族と一緒にシーサイドタウンで暮らしている。
　けれどもし、桜花寮のお世話になっていたらどんなふうになっていたのだろう。
（たとえば、俺が桜花寮の寮生だったら……あおいさんとは、どんなふうに出会っていたのかな）
　寮生活に憧れているので、ここでこんな青春を送りたいという願望も。
　桜花寮での生活にしてみたのは、七夜あおいがここにいるからだ。
　
　寝子高１年のとある秋の日。
　寝子ヶ浜海岸であおいと出会ったけれど、もっと先に、どこかで彼女に出会っていたかも。
　きっともっと早く、春のうちに。

　寮暮らしだったとしても彰尋は昼食にお弁当を作ると思うので、いつかは食堂で出会っていたのかも。
「美味しそうなお弁当だね」
「そうかな？　俺が作ったんだけど……」
「彰尋くんが？　お料理、上手なんだね」
　こういう会話もあるかもしれない。

　寮生活なので家を優先することはない。
　家優先のためできなかった部活動をしているかも。
「やるとしたら寝子島高校家庭科同好会……かな」
　あおいが所属しているので、一緒に手芸や料理をするのは楽しそうだ。

　学校の行き帰りが同じ時間だったりしたら、こんなふうに言葉を交わしていたかも。
「おはよう、彰尋くん。今日もいい天気だね。早く行かないと遅刻しちゃうよ」
　出かけ先や食材の買い出しで会ったり、なんてのもあるかもしれない。
　アクセサリ作りの材料の買い出しで会ったら、アクセサリの話で盛り上がるかもしれない。
　桜花寮の行事や作業で、少しずつ話す機会が増えるかも。
　寝子高以外で接することができるので、少しでも一緒にいられる時間がある。
　就寝時間まで雑談したり、ということもあるかも。

「俺は、彼女のことが好きになるのだろうか」
　いろいろと想像しているうちに、そんな疑問が生じた。
「それは多分、変わらなそうかな」
　あおいに惹かれた部分は、出会う前から彼女が持っていたものだから。
　どこにいても、互いの立場や性別が違っても、それは変わらないかもしれない。
　別の場所にいて、別の立場だったとしてもきっと、変わらずに彼女に告白して。
　卒業まで返事を待って。
　その日が来るまでは変わらないように……と祈り。
「友達以上に大事だけど、恋愛感情を持っているといえるかわからない」
　特別な存在のままでいられるようにしてると思うが、きっと知らない寮での一面なんかも見れるのか。
　寮でのあおいは、どんな様子なのか。
「夜のくつろいでいる姿とか、まず見れないだろう髪を下ろした姿とかに遭遇したり……」
　そんなことも、なんてと苦笑する。

　その時、彼のスマホが鳴った。誰からだろうと思い着信先を見るとあおいだった。
「彰尋くん、こんばんは。今、大丈夫？」
「大丈夫だよ。何か用？」
　あおいの用件は、明日、買い物に付き合ってほしいということだった。
「いいよ。特に予定ないから」
「ありがとう。助かるわ。行きたいところはね……」
　買い物に行く話をしながら、彰尋は窓を開け外を見上げる。
　多くの星が見えるので、明日は晴れるかもしれないと思いながら、あおいと話を続けるのだった。

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