たとえばこんな出会い方｜リアクション

たとえばこんな出会い方

●幼い日の夢見る出会い

　稲積柚春はウォルター・Bとの結婚式ももうすぐという時に大喧嘩を。
「ウォルターさんも王子様みたいに優しかったらいいのに！」
　いづらくなったので、酷いことを言って家を飛び出した。
　喧嘩はとても些細なきっかけから発展したが、引っ込みがつかなくなったようだ。

　王子様というのは何歳の頃かは覚えていないが、柚春が公園で出会った少年のことだ。
　公園のベンチに座って物憂げに本を読む姿が格好良かったので声をかけた。
「キラキラの髪が素敵！　空みたいな目……きみ、王子様？」
　話しかけられたことで本を読む手を止めた少年は、そう思われたことが不思議だった。
　癖のある金色のベリーショート。くりっとしていて大きく、青い色の猫目。
　絵本に出てくる王子様のような見た目だったので、そう思われたのかも。
　王子様じゃないよと言いたいが、女の子の泣かすことはしたくない少年はそう思われてもいいかと否定せず。

　静かに本を読むのが退屈になったのか、少年は話し相手になってとお願いを。
　それから、柚春と少年はベンチに座ってお喋りを。
「王子様も遠いところから来たの？」
「僕のおうちは公園の近くだよ。君のおうちは？」
「お引越ししたばかりだからわかんない。わたし、お引越しは慣れっこだよ」
「引越ししてきたんだねぇ。お友達とのお別れ、寂しくなかったかな？」
「すぐにお別れするのは寂しい……」
　転勤族の親の都合とはいえ何度も引っ越し、仲良くなったお友達とお別れというのは良くある。
「大人になったら寂しくなくなる？」
「大人になっても寂しくなるかもしれないねぇ」
　
　その後もベンチで他愛もないお喋りをしたり、ごっこ遊びをしたりと少年にたくさん遊んでもらった。
「君に真心の愛を」
　少年は花壇に咲いていたタンポポを摘み、柚春に差し出した。
　その姿はまさに王子様。台詞もだが、その姿も格好良くて見惚れてしまった。
　楽しい時間はあっという間に過ぎ、時刻は夕方5時。
「時計の短い針が5になったら、おかあさんがおむかえに来るんだった」
　遊ぶ前に説明したことを思い出し、お迎えに来た母と手をつないで家に帰った。
「王子様、バイバーイ。また遊ぼうね」
　明日も会えるかな？　と翌日も公園に行ったが……少年は来なかった。
　次の日も、その次の日も会えなかったので、今度は少年が引っ越してしまったのかもしれない。

　10数年前の寝子島であったことを思い出した柚春は、思い出の公園に来ていた。
　少年と座ってお喋りをしていたベンチは随分と色褪せていたが、まだ残っていた。
（うーん……僕ってああいう系統の顔が好きなのかな？　あの時の王子様は確かに優しかったけど、今、好きなのは……）
　ベンチに腰掛け、もしウォルターさんが探しに来てくれたらどうしよう……と考える。
「探しに来てくれたら謝ろう。ふふ、あの王子様はどうしてるかな」
　そんなことを考えていると、公園の前にウォルターが立っていた。
「ここにいたんだ。随分と探したんだよ」
「心配かけさせてごめん、ウォルターさん……」
　柚春が立ち上がった時、ウォルターは持っていたタンポポを差し出す。

「君に真心の愛を」

　照れながら言うウォルターを見て、昔、ここで出会った王子様と呼んでいた少年のことを思い出す。
　これは、あの時の再現なのだろうか。もしそうなら、これは素敵な出会いだ。
　ウォルターにあの時の王子様？　と聞きたかったが、本人の口から聞きたいので聞くのをやめた。

　タンポポの花言葉は『愛の神託、真心の愛』。
　受け取ったタンポポを見て、柚春はあの時の王子様はやっぱり……と思うのだった。