モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！｜リアクション

モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！

●困惑の濡れ透け

　ちょうどこの日、月原想花は海の家でバイトをしていた。
　猫鳴館暮らしの想花は、少しでも生活費を稼ぐためにさまざまなバイトもしている。どちらかというと内向的な性格なので、部屋でひとり空想に耽る時間の方が好きなのだが、背に腹は代えられない。
（ここ最近のバイトは飲食関係ばっかりだなあ。この前の海開きの時はなぜか魔法学園の制服風で、星ヶ丘の時はメイドさん。で、今回は……）
　夏である。海である。
　とあればもちろん水着。
　その上から、白地に可愛らしい子熊のちびキャラが描かれたＴシャツという、いかにもそれっぽい格好だ。
　Ｔシャツの裾は結んで、ライムグリーンのビキニから伸びる白い素足が露わになっているが、熱いし、忙しく立ち働いているしで、恥ずかしさなど感じる暇もない。ランチタイムのピークを超え「月原さん、休憩してね」と言われてようやく、自分がずいぶん草臥れていることに気付いた。
「ふー、あっつ……」
　ふだん汗をかかないような太腿にも珠の汗。肌が熱を持っている。
　手にしたペットボトルの水を頭からかぶる。
「……気持ちいい……！」
　首を振って髪に滴る水を振り払うと、風が起きてすこし涼しく感じられる。
　犬が水を被ってブルブルする気持ちが、いまは心底わかる。
「素晴らしい……！」
「え？」
　振り返ると実行委員の腕章をつけた青年が、眼鏡をきらりとさせて立っていた。
（自分とは入れ違いだが、たしか猫鳴館の先輩だったはず……）
　海原茂である。茂はしっかと想花の腕を掴んで行った。
「そこのアナタ。コンテストへ参加してください！」
　想花は困惑した。
「あの、ぼくいま海の家でバイト中で……」
「さあ！」
「休憩時間が終わっちゃう……」
「さあ、さあ！」
「あ～れ～……！！」

　有無を言わさずステージに上げられ、想花はすっかりパニックになる。
「歩いて行って、自己紹介して、もふーなアピールをすればいい……と言われても……」
　簡単なことだが、簡単じゃない。
　どちらからというとビビりでドキドキする性質なのだ。
　観客席の方を見ただけでくらりと眩暈を感じた想花は、息を吐いて眼鏡を外した。
「すみません、これを預かっていていただけませんか」
　せめて観客席が見えないようにしないとまともに立ってられない。
　視界がぼやけると、色の塊がなんとなくある、というふうにしか見えなくなったので、
（ここは花畑、ここは花畑）
　と自分を誤認させて歩き出す。

　着っぱなしのＴシャツは先ほど頭から被った水で濡れ透けだ。
　稚気を感じさせる子熊のキャラクターと相俟って、水着姿よりかえってセクシーにも見える。
　本人はあまり自覚がなかったが、眼鏡をとった素顔は人目を引いた。
　セクシーで綺麗で、それでいて自信満々ではなく恥ずかしがってる。
　ギャップ萌えである。

「月原想花です。そこの海の家でバイトしてて……急にこんなことになっちゃいました。
　アピール……といわれても、ぼく、歌とか踊りとかダメだし……」

（ぼくっ娘……！）
　会場がざわっと萌えあがったが、いっぱいいっぱいになっている想花はそれどころではない。
　ヤケクソ気味に、自分がお気に入りのＴＲＰＧの神獣召喚士の召喚魔法の詠唱の真似事をする。
「灼熱の縋るものよ、我が目前に乞う。炎を持って愚者に導きを！！」
　非常に厳かな様子で真に迫った演技に、またまた観客席は驚愕する。
　
　詠唱を追えると、想花はもとのシャイな雰囲気に戻って、最後のモフーアピールをした。

「えーと……ぼく、アルパカさんとか好きです！」

　二転三転。ころころとイメージを変える想花の姿に、人々のハートは鷲掴み！
　モフメーターも上がりまくりである。