モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！｜リアクション

モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！

●コトラと一緒

　イベントやってるよ、と誘ってくれたのは妹だった。
　ほんのちょっと覗くつもりで、光村日向はコンテスト会場にやってきた。
「モフモフと水着って不思議な組み合わせだね」
　素朴な感想に応えて、腕に抱きかかえた猫のコトラがにゃーと鳴く。
　すると妹も、寝子島らしくていいよね、と笑みを浮かべて見上げてきた。
「そんな寝子島が僕も好きだからねぇ……」
　なんだか気持ちがほわほわする。
　穏やかに打ち寄せる波の音。
　ちょっと変わったことを柔軟に受け入れて楽しむ人々。
　これこそ寝子島と言えるだろう。
　そう、突然「アナタ！」なんて呼び止められて、あれよあれよと参加させられるようなことも。

「……え！？　僕が参加するの？」
　実行委員に腕を引かれ、コンテストに参加してくださいと請われた日向は、目を白黒させた。
　裏腹に、妹は目を輝かせている。
（そういえば、）
　妹が賞品のお三夜様をじっと見ていた姿を思い出す。もし出場したら、あのお三夜様が手に入るかもしれないんだ。こんな機会めったにないし、思い出話にもなりそうだし……。
「頑張ってきてお兄ちゃん！」という妹の激励が最後の一押しになって、日向は出場を決めた。
「わかった。……応援任せたからね」

　妹を観客席に残し、実行委員に連れられて更衣室にやってきた日向は思案した。
「テーマはけものかぁ。モフ要素は……水着で何とか」
　すると、一緒についてきていたコトラがカリカリと脹脛を突いてくる。
「！　……コトラ、協力してくれるかい？」
「にゃー」
　とコトラはいいお返事。そのときちょうど、出番となって名を呼ばれた。
「うん、なんとかなりそう。行くよ、コトラ」

　ステージに出るとまず、観客席の人の多さが目に飛び込んでくる。それから太陽を照り返して輝く砂浜、青い海と空。拍手の音に、頭が真っ白になりそうになったが、踝をくすぐるコトラの毛並みの感触が、すっと気持ちを落ち着けてくれた。
　日向は水着と、前を開けた白いパーカー。青緑と黒色のワンポイント猫柄ハーフパンツ姿で、手にはカラフルなビーチボールを持っている。
　はじめはコトラといっしょに少し澄まし気味で、ファッションショーのように歩いて行ったが、途中からコトラがじゃれたそうにムズムズしはじめたので、ポーンとボールを弾ませてやった。
「にゃにゃっ」
　コトラがボールを追いかけて跳ねる。猫好きな寝子島の観客たちがどっと盛り上がる。
（そっか。ちゃんとしてるより、こういう方が僕たちらしいな）
　日向は運動神経はいい方だ。バスケット選手みたいに上手にボールをドリブルしたり、キープしたりしながら、コトラの動きをコントロールしていく。
「おっ、と」
　ボールに夢中になったコトラが跳びかかって来て、日向はステージの真ん中で押し倒された。
「ははっ、コトラ。はしゃぎすぎだぞ」
　コトラを膝の上に載せて上体を起こすと、コトラをボールでじゃれさせながら自己紹介をする。

「光村日向です。こっちはコトラ。
家族と一緒に海水浴にきてて……お兄ちゃんたち頑張ってます。
仲の良さとモフモフをどうぞご覧ください」

　日向はさらに餌を使って、曲芸のごとくコトラを八の字に誘導したり、コトラを肩に載せて移動したり、いつもやっているような遊びを披露してみせた。

　最後にコトラに「おいで」と声をかけ。

「にゃん、もふーー！」

　コトラの手を挙げてはにかみ笑顔でいっしょにもふーを主張すると、観客席からは柔らかい拍手が雨みたいに降ってきた。その中にはもちろん妹の顔もあって。

（喜んでくれたなら……頑張ったかいあったかな）

　ほんわか。心があったかくなった。