【セイガの塔・６】

　ハイデーモンの甲高い奇声が合図となり、アンデッドの大群が塔へと押し寄せる！
「くそっ！　抜かれる！」
　市橋が槍を薙ぎ払って骨を砕くも、白骨の奔流は留まるところを知らない。
「逆巻、そっちに20体は行ったぞ！」
　盾で攻撃を捌きつつ確実に切り伏せる望月だが、相手の物量に押し戻されてしまっている。
「爆弾矢には限りがあるけど、出し惜しみできないね」
　少量の火薬袋を矢尻に付けた爆弾矢の威力は、地面に埋め込んだ爆弾の威力からしたら手持ち花火程度の威力しかない。
　それでも、爆発の衝撃で飛び散る骨の残骸が小気味いい音を立てながら他のスケルトンの体に跳ね返り歩みを鈍らせる効果はあった。
「悪いけど、そう簡単に譲れない」
　逆巻は遂にろっこん『裏切りテリトリー』を発動！
　魔法陣内に足を踏み入れたスケルトンが総じて180度向きを転換し出す！
　そして向かってくるスケルトンと正面衝突を起こして砕け散っていく。
「動ける兵士たち、今だよ。罠を発動するんだ」
　逆巻の指示した落石と丸太トラップがスケルトン軍団のど真ん中で発動！
　後方の軍勢に甚大な被害を及ぼしてく！
　逆巻自身も速射で応戦、スケルトンの大群を冷静に対処していく。
　だが、そのうちスケルトンの剣撃が魔法陣の線を描かれている地面ごと破壊！
　結界が消失し雪崩込む白骨兵たち！
「まだだよ、リミットオーバー。『魔法陣を簡略化して、発動の緩和を図る』よ」
　坂巻の体が淡い光に包まれた瞬間、再び不完全な魔法陣に紫の光が帯び出す。
　スケルトンたちは一斉に逆巻へ襲い掛かった！
　振り下ろされる剣の刃！
　だが、スケルトンは一斉に陣地から吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられ粉々になった！
　陣内の進行方向を真逆のベクトルへ反転させ、敵を吹き飛ばしたのだ！
「同士討ちも考えたけど、方向転換するだけで潰し合うなら必要ないかも」
　陣地の目の前でスケルトンが玉突き衝突を次々に起こす光景に、思わず逆巻は言葉を漏らす。
「まさに地獄絵図といったところか。賽の河原でもここまでうず高く積まれないだろうね」
　だが、リミットオーバーがいつまで持つか分からない。
「八神たちはまだかい……？　桜井、急いでくれ……」
　内心、焦りの色が見え始めてきた逆巻であった。

「地上は指揮官が足止めしくれてるみたいやな。俺たちも決着付けるぜ！」
　浅沼がリミットオーバーを宣言！
「よっしゃァ！　『機動力アップ』や！」
　背中の翼が２対になり、力強く羽ばたく浅沼！
「あたしもリミットオーバー！　『高速移動を可能』に！」
　澪乃も速度を上げて、デーモンが回避出来ない攻撃を繰り出す準備を整える。
　スケルトンを充分に召喚したデーモンたちは、電撃魔法を放ちながら２人を強襲！
「遅いわボケ！」
「危ないっ！」
　２人とも楽々とこれを回避。
「皆さん、２人に当たらないように援護射撃を！」
　天満はタイミングを計りながら空へ向けて矢の雨を降らす！
「ナイス援護や！　オラァッ！！」
　浅沼は矢の号令が掛かると一時上空へ退避し、その後急降下して殴るように槍をブン回すといった戦術でデーモンたちを翻弄する。
　一方、澪乃はバランスを崩したデーモンを狙い、チクチクとダメージを与えていく。
「このっ、このっ！　こっち来ないでー！」
　若干へっぴり腰なのはご愛嬌。
　押される満身創痍のデーモンたち。
　その後ろから筋骨隆々なハイデーモンが高速接近！
　指先から迸る熱量を溜め込むと、光線銃のように突然発射！
　ハイデーモンの奥の手、灼熱光線魔法だ！
　熱光線は味方のデーモンの心臓もろとも浅沼の翼を撃ち抜いた！
「やば……！　バランスが……！」
　３枚の翼で空に留まるも、上手く態勢を保つことが出来ない！
「柳司くん！」
　助けに向かう澪乃だが、背後に回り込んだデーモンの剣閃が彼女を襲う！
　痛烈な悲鳴が空に響くッ！
　これに素早く天満が反応する。
「お二人共、負けないでくださいまし……！」
　リミットオーバー。
　彼女の目覚めたばかりのろっこん『星の領域』を試す機会が来た。
「お二人とも、何か道具を投げてくださいまし！」
「なら俺の帽子を！」
　浅沼が被っていた帽子を放り投げた。
（『発動したい対象が大事にする物を矢で射抜く』事が発動条件……。リミットオーバーで『大切な物以外でも発動』出来るようになれば……！）
　天満が弓の弦を放つと、矢は真っ直ぐ帽子を射抜いた。
　すると帽子は光を放って消失すれば、浅沼の身体を中心に怪我を回復する球状領域が展開される！
「澪乃様、早く光球の中へ！」
　澪乃は背中の痛みを堪えながら、星の輝きの中へ身を投げ込む。
　すると、背中の痛みがすっと消えていくではないか。
「俺の翼も繋がったで！　反撃開始や！」
　２人は高速で飛び交い、すれ違いざまにデーモンたちを貫いていく。
　電撃と光線を躱しながら、天満に合図を送り斉射を促す。
　その甲斐あって１体、また１体とデーモンが墜落していく。
　遂に残るはハイデーモン、ただ１体！
「観念しぃや！」
　浅沼が殴打するように槍を叩き付ければ、澪乃は裂帛の気合と共に突き刺す！
　しかし、ハイデーモンは両手で双方の攻撃を受け止めると、口から灼熱の光を灯らせる！
「うそ、口からも魔法が吐けるの！？」
　澪乃が逃げようとするが、リミットオーバーの限界時間が近いことに気が付く。
　それは浅沼も一緒で、急いで塔へ戻る２人の背に熱光線を溜め込んだハイデーモンの口が向けられる……！
　そして……！

「ピピピピピピピピーィッ！！」

　突然、ハイデーモンの前に黄色いカナリアが横切った。
　そしてカナリアはウズラの卵を亜人の顔面に勢いよくぶつけた！
　その中身は胡椒！　亜人といえども胡椒の刺激で鼻の粘膜が刺激される！
　ハイデーモンは大きく仰け反り、鼻の穴をヒク付かせたかと思った次の瞬間！
　くしゃみをしたハイデーモンが光線魔法を飲み込んだ。
　ハイデーモンの頭は閃光と灼熱と共に爆散し、肢体は力なく墜落していった。
　カナリアは浅沼と澪乃と共に塔の屋上へ降り立つと、桜井の姿に戻って倒れ込んだ。
「桜井様、大丈夫ですか！？」
　慌てて駆け寄る天満。
　ろっこんを連続使用した代償は計り知れない。
　朦朧とする意識の中で、桜井は確かに言伝する。
「援軍……待たせたな……！」
　浅沼が地上を眺めれば、ちょうど挟み撃ちするように八神たちのサクラ防衛隊がスケルトンの背後を攻撃している真っ最中だった。
「わぁ……、や、やったぁ！」
　ろっこんの反動で平衡感覚が役に立たない澪乃が、塔の柵によじ登りながら歓声を上げる。
　勝敗は決したと言っていいだろう。

　事実、セイガ防衛隊の粘り強い抵抗と援軍の挟撃によって、スケルトン部隊は駆逐され、無事に塔の防衛を完了させたのだった。

　浅沼 柳司：空戦でデーモン部隊を撃墜
　天満 七星：ろっこん初使用で戦線維持に貢献
　澪乃 澄佳：背中に切り傷を負うも、天満のろっこんで回復
　市橋 誉：スケルトンとの戦闘で軽傷を負い、逆巻の治療を受ける
　逆巻 天野：塔の最終防衛線を死守し、指揮官としても貢献
　日月 透：懸命の治療活動で、兵士たちを何度も戦場へ送り戻した
　望月 神無：スケルトンとの戦闘で軽傷。日月に小言を言われながらも手当を受ける


　セイガの塔：防衛成功！