レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

「菜々緒、お待たせ。ほれお茶」
「ありがとう、クロ」
　芽森菜々緒がお茶でほっと一息ついた直後。背後でどん、という大きな音がした。まるで誰かが倒れたかのような音。
「何だ!?」
真っ先に立ち上がった風雲児轟が現場でたたらを踏む。問題が起きているのは女子トイレの中だ。犬神花梨が扉を蹴破って飛び込む。そこには昏倒したレディ・ウルフ、蛇口から飛び散る水と撒き散らされたアイスコーヒーの濃茶の海、そして痛みにうめきながらも一人の暴漢をしとめたエレノア・エインズワースの姿があった。
「エレノア!?」
「突然……『もれいびは消さなければ』とつぶやく男が窓から。一人は『ネヴァー・パーツ・ラヴァース』で絡めとりましたが……」
「なんなんだ、こいつは！」
「『こいつら』です。外に複数いますよ」
新井米太郎は悲鳴をあげる店員や客をなだめ、119番と110番を促す。轟はウルフとエレノアの外傷を確かめた。血は流れていないが、したたかに何かで殴られたような黒いあざができている。

　表の引き戸を乱暴に開け、同じ服装をした不気味な男たちが乱入してきた。みなフードを目深にかぶり、ぶかぶかのズボンにスニーカーを履いている。見えない表情の代わりに、白い髪の毛がのぞいていた。
「セブン……!?」
「そんな、だってセブンは……！」
思わず口にした黒依アリーセと菜々緒の目が合う。そうする間にも怪しい男たちはじりじりと迫る。泣き叫びながら逃げ出す一般客に、男たちは手出しする様子はなかった。
「もれいびは消す……もれいびは消す……」
呪文のようにつぶやき続けている。
「狙いは俺たち……あるいは、レディ、あなたですね」
シグレ・ナイトウォーカーはすばやくロゼッタを抱き上げた。いわゆるお姫様だっこ状態である。
「これ以上『紗乃香』にダメージを与えず、セブンの真実に近づき、護衛班が有利に戦える状況に持っていくために……。俺はあなたを連れて逃げることにします」
「シグレくんも護衛でしょう!?」
「ええもちろん。ただしレディ、あなた一人を守りぬくための護衛です」
言うやシグレは疾風のように店を飛び出し、ロゼッタを抱えたまま宙に舞い上がった！　二名の男がシグレを追う。だが『怪盗補正』の力で超人的な運動能力を得たシグレが逃げていくのは高い屋根の上だ。男たちはたちまちシグレとロゼッタを見失うと、再び店内に向き直った。
「待ってよ、ロゼッタちゃーん！」
バイクにまたがった八十八旗信彦は、まっすぐにシグレの消えた方向へ走り去って行った。
「イレギュラーが起きた。マイクは役に立たない。カメラで店内を注視してくれ」
シグレは八神修にそう告げる。シグレの速度に耐え切れず、インカムはざざ、ざ、と風を吸い込む轟音を残して沈黙した。
「何が起きている!?」
修が最後に見たのは、棍棒を振るうフードの男たちの姿だった。カメラは横倒しになり、そして真っ暗になる。一般客の悲鳴と逃げ惑う足音の後、ぐしゃりと音がして、何も聞こえなくなった。

「おい、『一般人』が多いここじゃだめだ！　てめぇら外に出ろ！　それに俺様のスイーツがめちゃめちゃになるだろ！」
ろっこんが発動しない危険性と、なにより美しくおいしいスイーツを守るため、花梨が叫ぶ。はじかれたように日暮ねむる、常闇月は外に出た。予想通り、男たちは彼らを追ってきた。
「ねむる、月、適当な場所で相手してやれ！　俺様は残りを引き受ける」
「俺は!?」
後から店先に出て、抗議するように問う風雲児轟に花梨はしかめつらで振り向いた。
「残って店のモン逃がせ。増援が来たら撃退しろ。それと、スイーツと菜々緒を死守だ。まさかできねぇのか？」
「冗談！」
挑むような不敵な笑みで轟は答えた。
「手を貸す！」
「ああ、悪いな」
助っ人に駆けつけた志波武道の力を借りて、二人は救護活動に当たった。