レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

「今日はよろしくね」
　外に出たロゼッタは、占い小屋にいるときよりは地味な、光沢のない黒いロングドレスに身を包んでいる。長い三つ編みの少女が真っ先に立ち上がり、深々と礼をする。
「常闇月と申します。あなたがロゼッタ氏ですね。……なるほど、不可思議な雰囲気をお持ちです」
「月さんは僕が信頼する力量の持ち主ですよ。彼女がいれば安心です」
と、日暮ねむるが言う。月はそれを聞くとさっと顔を伏せた。表情に変化はないが、たぶん照れているのだろう。
「芽森先輩が到着するまで、ゆっくりなさっていてください」

黒依アリーセが声をかけると、女占い師はにっこりとうなずいた。テーブルには本日のために（志波武道の出資で）用意されたスペシャル和スイーツがつぎつぎと並べられていく。李小麗は子リスのようにぴょんぴょんとはねて喜び、浅山小淋も目を輝かせて宝石のように美しい菓子皿と、その上に彩られた菓子を見つめた。犬神花梨は辛抱たまらぬ自分を抑えつつ、妙なうなり声を上げながらスイーツ写真を撮影している。大方、あとで加工してカワイイ壁紙を作る気なのだろう。

「今のうちにご希望があれば、占わせていただくけどいかが？　今日はお招きいただいたお礼にフリーよ」
「私を……よろしければ」
これまた、真っ先に手を挙げたのは月だった。彼女のはっきりとした意思表示は珍しい。ねむるはおやおや、とおもしろそうにその様子を見た。ロゼッタはパーティ席から外れた二人がけのテーブルに移動すると、持参してきた紫色のビロードをかけた。
「はいっ。これで即席占いスペースの完成よ。ここはとても静かで清潔な場所だから、きっと正しい結果が出るわ。それで月ちゃん。占って欲しいことは何？」
「私の過去は後ろ暗いものです。人を、害したこともあります。おそらく私は、セブンと同じかそれ以上の殺人鬼です」
「そうなの？」
あえてか天然か、ロゼッタの答えは軽い。それに対して告白を続ける月の声は重苦しかった。
「なのに今の私はのうのうと人並みの生活を送っている。このままでいていいでしょうか」
「ふむふむ。今の生活を続けることを選択した場合と、そうでない場合を見てみましょう」
殺しただの、害しただのという言葉をロゼッタは意にも介せず、タロットカードを繰る。
「14番。アート」
カードの上に立つ月は、現実の姿と変わりない。だが、瞳の中に虹が映っている。
「調和、バランス、癒しを表すカードよ。あなたは自分をいびつな存在だと認識しているかもしれない。今の平穏な生活を続けていくことで、あなたは癒され、修正されてバランスの取れた人間になるだろうとカードは言っているわ」
「バランス……」
「そ。月ちゃんは今のフツウの生活で、女子高生らしく暮らしているだけで幸せになるのでえす」
月は虹宿る瞳の幻影を見て、考え込んだ。開かれていないもう一枚のカードを指差す。
「こちらは、今の生活を否定する道というわけですね」
「そう。その選択が示すのは……ソードの8」
アートのカードの上で立つ月と、寸分違わぬ姿勢の月がいた。が、ソードの8の上の月は目を閉じ、血の涙を流している。
「この私は泣いています」
「このカードが示すのは、閉ざされた心、制限、停滞。自分を抑え込んで生きていかなければならなくなる未来は、月ちゃんにとって辛いものじゃない？」
「わかりません。私は……わ!?」
大きな手が月の頭にのせられた。ロゼッタはにんまり笑って、月をわしわしと撫で始める。
「したいこと、自分で決めていいの。人任せの人生なんてつまんないぞ！」
ロゼッタは、たった今占いに使ったアートのカードを月に手渡した。虹のような色とりどりの絵柄、二面の女性が炎と水を注いでいる。背後の金の光輪には文字が刻まれていた。
「お守りにあげるわ。外で使ったデッキは、いつもの場所には持ち込めないの。だから気にしないでもらってやってちょうだい」
「はい。ありがとう……ございます」
月はカードを受け取り、不思議そうに絵柄を見つめた。