レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

【3日目昼女子会の日】
　茶屋『紗乃香』。店構えはこじんまりとしているが、中は予想外に広い。落ち着いた雰囲気の和風茶屋に、この日は多数の『女子』が集まっていた。テーブルを3つ合わせてこしらえられたパーティ席には、浅山小淋、犬神花梨、黒依アリーセ、李小麗がついている。主賓となる芽森菜々緒は吉祥寺黒子が連れてきてくれるはずだ。間をわずかに空けて用意された二人がけの席には、護衛の常闇月が。パーティションを隔てた別席には護衛チームのシグレ・ナイトウォーカーと日暮ねむるが腰掛けていた。女子会主催スタッフ、しかも会の中核を担うお財布係であるものの、女子でないという理由ではじき出された志波武道は、護衛チームの席に混じっている。マネーという名のパワーを使い果たして、武道は煙を上げてテーブルに突っ伏していた。

「シグレさんにも来ていただけるとは心強いですね」
「何。俺も独自にレディには接触していたところだったからな。日暮たちも来ているなら好都合だ」
ねむるの言葉にシグレはうなずく。一般客を装うシグレは、待つ間ゆったりとグリーンティーをたしなんでいた。彼自身は、菜々緒とロゼッタの邂逅にポジティブな意味を見出していた。悩み多き芸術家にとって、占いは新たな道を見出す指針になるかもしれない、というのが彼の持論である。

「ちょっと護衛班、多すぎますかねぇ？」
「いや。相手はセブンだ。もし本人が現れたら……これでは足りないおそれもある」
シグレは多くのものがセブンの正体と目する、芽森菜々緒を見やる。
「に、しても……あの少女がそうだとはにわかには信じがたい、が……」
気になる点は他にもある。捜査班や情報班と協力して得た、失踪したもれいびたちの情報だ。
『失踪したもれいびたちは、ろっこんを使って犯罪行為を行っていたものが多い』
『拉致から脱出した男の名は但野。自身の犯罪（窃盗）については証拠不十分のため自宅に帰されている――証拠がそろえば在宅起訴か？　判明している犯罪の内容は、養護施設の金庫荒らし』
『但野の記憶には混乱が見られた。うまく逃げ出したのではなく、"もし本当にセブンが犯人なら"記憶を改竄されて泳がされた可能性も――』
『このほか、佐島という奇行が目立つ青年が失踪したという情報もあった。自らの特殊な能力を誇示していたという』
「このピースを、どうひとつにまとめようか」
『こちらも監視は続ける。よろしく頼む』
耳に仕込んだインカムから聞こえるのは、八神修の声だ。シグレが室内の音を拾い、さりげなくコートかけにかけられた上着に仕込まれた定点カメラが店の様子を見張る。

「あの占い師に、うまいこと乗せられちまった気もするが……」
風雲児轟もまた、店内にいた。入り口に近い席で、みなに背を向け座っている。一人でこっそり甘味を楽しみに来た男子、という風に見えなくもない。パーティ席との間は一般客の頭や背が障害物になっていたが、気配で変化には気づける自信があった。
その轟の横を、人影が通る。背の高い黒髪の女性はレディ・ロゼッタ。意外なことに同行しているのは同学年の八十八旗信彦だ。
「やーやー諸君！　今日はロゼッタちゃんの付き人として同行させてもらったよ。女子会の邪魔はしないからご安心を」
信彦は「ささ、ロゼッタちゃんはあちらへ」と女占い師をパーティ席へ案内すると、轟を目に留め、相席の形で席に着いた。
「な、何だよ……」
「ふふふ、俺は見ただけでピンと来たね。君も万一のための護衛なんだろう？　一緒に女子会の平和を守ろうじゃないか」
戸惑う轟にサムズアップして、信彦は自信ありげににっかりと笑うのだった。