レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

　一方、『レディ・ロゼッタの未来観測』からはにぎやかな声が聞こえていた。
「信彦くん、いったいいつまでここに住み着く気なのよぉ」
ひょうひょうのほほんとした態度が持ち味のはずであったロゼッタだが、今はどうにも困り顔だ。
「ロゼッタちゃんが心配だからね！　片時も離れずにいたいのさ」

八十八旗信彦が満面の笑顔で答えると、ロゼッタはがくりと膝をついた。対面二度目の今回、呼び名は『レディ』から『ロゼッタちゃん』に変わってしまっている。仮にも三十代半ばを数えんとする女性にちゃん付けとは、なかなか挑戦的である。だがもう、ロゼッタはそれを訂正する元気もなかった。
「あーそうよね……あなたには私のカードも、何もかも、かなわないんだったわ……」
占ったロゼッタ本人ですらその結果に仰天するほどの幸運の星を持つ信彦に、ロゼッタは降参だった。来客中は控え室で静かにしていてくれるし、食事の調達、情報まとめ、バイクでの移動と、手足となって役に立ってくれている。ありがたい存在ではあった。
「私のこんな計画に付き合ってくれるのはありがたいと思ってるわ。でもねぇ……」
「いやあ、バイクも用意してきてよかったね。ロゼッタちゃんがこんな引きこもりだとは思わなかったよ。ご飯ぐらいは外で食べないとね。今日のディナーはどこにしようか？」
信彦は上機嫌でこれからの予定を語る。
「でもねぇ！　ほんっとに、明日の女子会、信彦くんも来るの？」
「行くに決まってるじゃないか。何があるかわからない、俺が行かずにどうするんだい。なに安心しておくれ、女子会の席から少し離れたところで、見守っているからね」
ロゼッタは黙って占いテーブルにがすがすと頭を打ちつけ始めた。信彦はあわててそれを制止する。
「おおっと、髪が乱れちゃうじゃないか。落ちついて」
我に返ったロゼッタに、信彦は心配そうな顔をした。
「それにしても、危険人物と実際に会うのはあまりにも危険過ぎないかい？　今までの自身の行動結果や、これからのことを占ってみるのはどうかな」
「自分を占うのは、最大のタブーなのよ。最悪、カードに永遠に嫌われてしまうわ」
「なら、俺の安全ならどうかな？　一緒に行動するんだから、俺が安全ならロゼッタちゃんも安全な可能性が高まるからね」
ウィンクし、微笑む。夜なのに歯が光りそうなほどさわやかな気持ちのいい笑顔だ。
「本当に、あなた笑顔がすてきよねえ……それに何人だまされたのかと思うと……」
「えっ、何なに？」
「何でもありませえん！　それじゃ早速占ってみようかしら」
なんだかコント風味になってきた空気を振り払い、ロゼッタは占い師の顔になる。
「一の選択は私と同行することを選んだ未来。二の選択は同行しない未来」
「俺はロゼッタちゃんについていくから、一しかあり得ない！」
ロゼッタがめくる一枚目のカードは、真っ黒だった。倒れ付す人影が見えるが、それは誰かはわからない。
「死神。……別れ、喪失」
二枚目のカードはワンドの9だった。
「受動的な姿勢、受身で待つことによって得られる吉報」
「行かない方が安全だって言うのかい。それでも俺は行くよ。レディがセブンに会うことが望みであるならば、紳士としては尊重しないわけにはいかない」
明らかに不吉を示す結果を見せられても、信彦の態度は変わらなかった。
「でも、これは……」
「ロゼッタちゃん！　暗い顔しちゃいけないよ。これは未来に起きる可能性のひとつでしかないんだろ？　さあ、まずは腹ごしらえだよね。ディナーに出かけようじゃないか！」
信彦は明るい声で、ロゼッタに手を伸ばす。
「まったくたいした少年ね。占いの結果、納得できちゃいそうよ」
ロゼッタは苦笑して伸ばされた手を取った。