レディ・ロゼッタの運命考察｜リアクション

レディ・ロゼッタの運命考察

　後木真央は拝島医院で足をバタバタとさせていた。
「薫ちゃん薫ちゃん。最近馬鹿ゴローの様子はどうなのだ？」
彼女が問う相手は、看護師の拝島薫。馬鹿ゴローとは、かつてセブンの模倣犯であった中年男、三下ゴローのことだ。
「何事もありませんよ。彼はおとなしくしています」
「むう……セブンっぽい事件が今起きているからひょっとしてと思ったのに」
「残念ですが、私ではお役に立てそうにありませんね。その事件についてはほとんど知らないんです」
真央はぐむむむむうう、という音を立ててうなった。携帯を取り出してメールを打つ。送り先は友人の八神修だ。真央は情報を得た場合も、得られなかった場合も、「誰に、どういう聞き込みをした」というソースを明記したメールを修に送り続けていた。
「真央ちゃんならよくわかんないことでも、修ちゃんならわかるはずなのだ」
修の情報集積・処理能力を信頼してのことだった。情報の渦に巻かれ、修も忙しいはずだが、時折メールの返事が返ってくる。真央はさらにもう一通のメールを修に宛てて打つ。
『セブンの名前はある種の人を惹きつけるから、模倣犯だっていっぱい出るのだ。逃げてきた人が言ってた手品のような能力っておかしくないのだ？　能力だけなら、ロゼッタだって怪しいのだ』
「そうだ！　ロゼッタに会って確かめるのだ！」

真央が思い立ってから、『レディ・ロゼッタの未来観測』にたどり着くまでわずか10分。あらあらまあまあ、と驚くロゼッタに挨拶をし、においをかぎ回ってから、「真央ちゃんは忙しいのでまた明日なのだ！」と小屋を飛び出す。
「セブンっぽいのは来てなかったし、ロゼッタからはテレピン油っぽいにおいもしなかったのだ……あ！」
誕生会で芽森菜々緒に抱きついたときの感じたにおいを思い出す。油絵の具を毎日扱う菜々緒自身はあまり気にしていないのだろうが、確かにきつい、灯油によく似たにおいがしていた。
「セブンの能力は記憶消しなはずなのだ……」
能力の描写だけが引っかかる。真央は首をかしげた。

　八神修は自室で後木真央からのメールを読む。そばには親友の霧生深雪がいて、彼もまた数あるタブレットやディスプレイに表示される情報の数々を見つめていた。右の手は包帯で包まれ痛々しい。
「確かに能力については矛盾を感じるな。それに芽森＝セブン説にもまだ確証はない」
「ああ。なら、シュウの考えるセブン像って誰なんだ？」
「芽森は確かにセブンの関係者ではあるだろう。たとえば、養父がセブンであったなら？　いや……」
養父、芽森白山は日本画家だ。テレピン油は使わないだろう。修は額に手を当て、目を閉じて考える。深雪はそんな親友に、何気なく思いついたことを口にした。
「拉致から逃げたって言う犯罪者が、すでに記憶改竄を受けている可能性は」
「ミユ！　……その可能性は考慮に入れておくべきだな。ひとまず捜査班に今ある情報を回そう」