手負いの獣｜リアクション

手負いの獣

　空は青く、暑さで大気が揺らめく。涼を求めた人々は寝子ヶ浜海岸やキャットロードの飲食店に群がった。
　サキリ・デイジーカッターは単身で寝子島を歩いて回る。白いＴシャツに迷彩柄のカーゴパンツは若々しく、周囲に上手く溶け込んでいた。終始、穏やかな表情で出会う人々にさりげない視線を向けた。
　サキリは見つけたベンチに腰を下ろす。胸ポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、ＳＮＳの情報を当たる。その間も前を通り過ぎる人物にそれとなく関心を寄せた。
　――新しい情報はないみたいだ。それにしても今頃になって報復とはね。
　サキリの赤い目が暗く沈む。
　――もれいびの拉致監禁を企てたのはそちらだ。失敗したことで立場が危うくなったのだろう。だからと言ってこちらを恨むのは筋違いだ。八つ当たりに付き合う気はない。
　口元に自嘲めいた笑みが浮かぶ。
　そんな僕も経験したことがあるけど、報復の果てには血みどろの未来しかない。どういう形にしても僕が不毛な争いを、この手で終わらせるよ。
　サキリは画面に目を落とす。素早く指を動かして噂話を装った文章を作り上げた。
『今日の深夜、落神神社にもれいびという者達が集まるらしい』
　速やかに情報を流した。
　――釣れれば儲けもの程度の策だけどね。
　情報は足で得るとばかりにサキリは島内の巡回を続けた。

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